監督


彼の音楽と物語にどっぷり浸かることで、私たちは自分自身について理解を深めることができるかもしれません。―ミシェル・オゼ監督

監督/編集 ミシェル・オゼ

ミシェル・オゼ

1987年からカナダで映画制作を開始。1996年からはフリーランスの編集者として有名プロダクションやメジャーな放送局で仕事をする。2000年、環境活動家デヴィッド・スズキがホストを務めるテレビシリーズ『The Nature of Things』の『Race for the Future』というミレニアム・スペシャル番組でジェミニ賞受賞。常に"物語"に焦点をあて、アートドキュメンタリーから社会的問題を扱った作品まで、幅広いジャンルを手がける。ピーター・レイモントとは高い評価を得た長編ドキュメンタリー『Shake Hands with the Devil: The Journey of Romeo Dallaire』や『A Promise to the Dead: The Exile Journey of Ariel Dorfman』、『Triage: Dr. James Orbinski's Humanitarian Dilemma』を含め8年間仕事を共にしており、本作が初の監督作品となる。


メッセージ/Message

ピーター・レイモントがグールドの映画に取り組もうとしていると知った時、多くのカナダ人と同じように私も、カナダ文化を象徴する偉大なピアニストではあるが、風変わりで影がある人物という程度の一般的な認識しか持っていませんでした。確かに「ゴルトベルク変奏曲」のCDは持っていたし、『グレン・グールドをめぐる32章』は好きでした。でも、正直言って、伝説的ともいえる人物として興味は持っていたにしても、その人となりについてはほとんど知りませんでした。

ピーター・レイモントから私に共同監督のオファーがあった時、即座に承諾しました。多くの伝説的人物と同じようにグールドも魅力的で複雑で矛盾に満ちた人であろうと思ったからです。同時に、グールドが古典的な悲劇のヒーローに仕立てられていたことも、引き受けた理由のひとつでした。彼の中には、人間の美しさを見いだすことができる一方で、最も暗い側面である恐怖と欠陥も存在します。つまり、人間のあらゆる強さと弱さの中でも根源的な要素があるのです。

製作は当初から困難の連続でした。グールドの伝記は5つあり、彼の生涯を扱った著作はその他にもあります。また、1982年にグールドが亡くなってから、彼の人生と偉業に焦点を当てた多くの映画が作られています。だから「何が新しいのか、なぜまたグールド映画を作るのか」というのが根本的な問題でした。

グールド本人と同じように、この問題の答えは複雑でした。グールドの人生は波乱に満ちています。伝説に沿ってグールドを子細に観察すれば、彼の真の姿に迫ることができるだけでなく、自分自身についても理解を深めることができます。私たちは誰しも成功を望み、何らかの形でその証しを残したいと願っていますが、そのために何かを犠牲にしています。本当に成功はそれだけの価値があるのか。簡単には答えは出ませんが、根源的で、考えるに値する問いかけです。

グールドは音楽の超越的性質についてよく語っていました。彼の音楽と物語にどっぷり浸かることで、私たちは自分自身について理解を深めることができるかもしれません。少なくとも私はそう願っています。

共同監督/プロデューサー ピーター・レイモント

ピーター・レイモント

映画監督、ジャーナリスト、文筆家、活動家。38年間のキャリアの中で、100本以上ものドキュメンタリー映画やシリーズ作品を手がける。カナダ国立映画制作庁にて編集、監督、プロデューサー業を行った後、映画/テレビ制作の独立会社「インベスティゲイティヴ・プロダクションズ」(現「ホワイト・パインピクチャーズ」)を設立。ドキュメンタリー『Shake Hands with the Devil: The Journey of Romeo Dallaire』は2007年エミー賞最優秀ドキュメンタリー賞および2005年サンダンス映画祭観客賞を受賞。2007年のトロント国際映画祭で初公開された『A Promise to the Dead: The Exile Journey of Ariel Dorfman』は、アカデミー賞最優秀ドキュメンタリー部門の最終選考に残り、2008年にサンダンス映画祭でプレミア上映された『Triage: Dr. James Orbinski's Humanitarian Dilemma』は、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭とカナダ国際ドキュメンタリー映画祭で観客の選ぶベスト10に入った。現在はCBCで放映中の人気ドラマ『ザ・ボーダー』第3シーズンの製作総指揮・共同製作を務めている。


メッセージ/Message

幼いころの私はよく、ウェールズ生まれの父が奏でる天使のようなピアノの音色で目覚めました。母もピアノが上手でした。姉も兄も私も強制的にピアノを習わされ、トロント音楽院のグレード試験合格証を額に入れて飾っていました。ハンサムで雄弁なグレン・グールドがすばらしいピアノ演奏を聞かせてくれたのは、私がそんな少年期を送った1960年代でした。世界中がグールドの天才的技巧に魅了され、カナダ人は、世界的に有名な音楽の天才がカナダで生まれ育ったことを誇りに思いました。

カナダ人画家トム・トンプソンやハリウッドのアンチヒーロー、ジェームズ・ディーンと同じように、グレン・グールドは古典的で謎めいた一匹狼の典型でした。陰気で雄弁でセクシーなグールドは、私たちの理想像でした。グールドの映画はいくつか製作されていますが、アメリカ人ピアニスト兼作曲家の妻との長期にわたる親しい関係が2年前に報道された時、私は、謎に包まれた男の隠された心の内を探るいい機会だと思いました。

ミッシェル・オゼは、ここ数年の間に、『Shake Hands with the Devil: The Journey of Romeo Dallaire』『A Promise to the Dead:The Exile Journey of Ariel Dorfman』『Arctic Dreamer: The Lonely Quest of Vilhjalmur Stefansson』など私の映画の多くの編集を手がけました。資料映像、写真、音源、インタビューは信頼できるものだったので、グレン・グールドのいまだ語られない人生に関するこの映画は、ミッシェルにとって、編集室から私との共同監督兼編集者へのステップアップの理想的機会のように思えました。

この映画の製作過程で、多くの驚くべきことが明らかになりました。私たちは、これまでにグールドとの関係について語ったことのない、グールドと親しかった人びとを発掘しました。めったに見られない資料映像や未公開の写真、グールドの大量の私的録音も発見しました。

初めて公の場に出て思い出を分かち合ってくださった方々に感謝しています。