物語


イスラエル占領地のヨルダン川西岸地区の町ナブルス 貧困で人々は苦しみ、時折ロケット爆弾が飛んでくる。
幼馴染みのサイード(カイ・ナシェフ)とハーレド(アリ・サリマン)は、お茶を飲んだり水パイプを吹かし、ナブルスのほぼ全ての若者がそうであるように、暇をもてあましている。自動車修理工として働いているものの、そこには未来も希望もなく、貧しい家族の生活を助けるためにできることは何もない。閉塞感とフラストレーションと絶望がないまぜになった、どん底の生活。占領下に生まれ、占領下で暮らしている。ナブルスは四方八方、すべてをロードブロックで囲まれている。何もない、誰にも顧みられずに深まっていくだけの貧困が街を覆っている。ふたりの生活の中心にあるのは、占領という事実だけだ。

そんなある日、サイードは車を修理にもってきた美しい女性スーハと出会い、互いに惹かれ合う。ヨーロッパで教育を受けたスーハは、殉教者であった父の故郷ナブルスで一人暮らしを始めているが、ヨーロッパとパレスチナの社会の違いに戸惑いと苛立ちを感じている。

しかしちょうどその頃、サイードは自爆志願者をつのるパレスチナ人組織の交渉代表者ジャマルに、「君とハーレドはテルアビブで自爆攻撃を遂行することになる」と告げられる。親友同士の彼らは、もしどちらかが殉教者として死ぬことを考えているならば、残ったもうひとりも死ぬことを望むだろう。彼らはチームとしてこの任務に選ばれたのだ。

最後の準備が行なわれる。ふたりのひげが剃られ、髪が切られる。パリッとしたスーツに身を包み、爆弾を付けたベルトが自分たちの体に装着されるのを、静かに見ている二人。このベルトはもうはずすことはできない、はずせば爆弾が爆発する…今回の自爆攻撃は、仲間が殺された「暗殺作戦」への報復として行なわれるのだ。

実行の日、仕事が見つかってテルアビブに行くと嘘をつき、庭の果樹の剪定をしながら母親に「父親がどのような人間だったのか教えて欲しい」と懇願するサイード。サイードの母は言う。「忘れなさい。遠い昔の話よ」。一方ハーレドは、何も言わず、いつものように家を出た。

そして…ナブルスを囲むフェンスが切断され、ふたりはその穴をくぐった。しかし、ここで計画が狂い、サイードとハーレドは離ればなれになってしまう…