イントロダクション

第60回カンヌ国際映画祭-監督週間で国際批評家連盟賞を受賞し、観た人全ての胸が締め付けられたという一本のドキュメンタリーが話題にのぼった。女優サンドリーヌ・ボネールの監督デビュー作『彼女の名はサビーヌ』である。

クロード・シャブロル、アニエス・ヴァルダ、パトリス・ルコントといったフランス映画界の巨匠達から愛されてきた女優、サンドリーヌ・ボネール。本作は彼女が初の長編監督作品にしてその才能がカンヌを初め国際的に高く評価された作品であると同時に、自らの妹が自閉症でありながら、正確な診断を受けることなく、長期にわたる不適切なケアによって一人の人間が歩んだ悲劇を公にした、心を揺さぶるドキュメンタリーである。

25年の歳月をかけて撮影された映像によって観客は、過去の生き生きとした若かりし頃の妹と、入院期間を経て施設に暮らす現在の彼女の「変化」を容赦なく見せ付けられる。しかしそれと同時に、その「視点」は今も昔も変わることなく愛に満ち溢れた、姉の「眼差し」であり、完成された映画は妹への「抱擁」である。

サンドリーヌ、明日も明後日も会いに来てくれる?―――ええ サビーヌ、約束するわ

11人兄弟の七女に生まれたサンドリーヌ・ボネールには一歳違いの妹、サビーヌがいた。陽気で美しく、芸術的才能が豊かなサビーヌは幼い頃から特別なケアを必要としてきた。─彼女は自閉症である。同級生から「バカ・サビーヌ」とからかわれる日々。やがて姉妹兄弟がそれぞれの人生を歩み出す中、一人、母親と暮らす彼女。兄の死をきっかけに彼女の孤立感は増し、不安は家族と自分に対する衝動的な暴力として現れた。

そして自閉症としての適切な診断を受けることなく28歳で精神病院へ。入院は5年に及ぶが、退院時の姿は変わり果てていた。




監督・脚本・撮影:サンドリーヌ・ボネール
共同脚本・撮影:カトリーヌ・キャブロル
録音:ジャン=ベルトラン・トマソン、フィリップ・リシャール
編集:スヴェトラナ・ヴァインブラット
音楽:キャロ・ディアロ、ニコラ・ピオヴァーニ
オリジナル楽曲:ジェファーソン・ランベィエ、ウォルター・グエン
プロデューサー:トーマス・シュミット(モザイク・フィルムズ)
出演:サビーヌ・ボネール

2007年/フランス/85分/video/カラー/1:1.66/フランス語
原題:Elle s’appelle Sabine
日本語字幕:山浦裕子
字幕監修:市川宏伸(都立梅ヶ丘病院 院長)、島内智子(都立梅ヶ丘病院 医員)
協力:ユニフランス東京フランス大使館東京日仏学院エールフランス航空アニエスベー