THE ダイエット!


解説

『エンターテインメント・ドキュメンタリー』

原 一男

 実は……この「THE ダイエット!」という企画については、もう3年以上も前になるだろうか、関口さんから個人的に直接、あれこれ聞いていた。“セルフをやってみようと思ってるんですよ”と語る関口さんだったが、セルフはいいとして“デブ”に関してがテーマだと言う。どんなふうに描くのかな?と映画のイメージがリアルに結べないまま、ふーんと聞き流すだけの私だった。

 完成した作品を見て、ビックリ仰天、実にエンターテインメント・ドキュメンタリーとして見事な出来映え、傑作ではないか!

 関口さんの艶姿ならぬデブ姿百体と言うべきか、脂肪の塊である己の姿を、あの手この手と繰り出し、そりゃ作り手の側は意味、意図があってのことだから必然性があるんだろうが、否応なく見せられる観客としてはかなりツライものがある。ま、それらの描写は、関口さんの“天真爛漫ふうキャラ”のおかげで深刻なシーンではなく、ユーモア溢るる描写でエンターテェインメントしてて、けっこう笑えるのである。

 そうこうしながら画面は”何故デブなのか?”という問いかけが、精神分析的手法を駆使しつつ展開され、あれよあれよと息つく間もなく、デブであることの意味が存在論的かつ哲学的な広がりと深みを見せていく。その展開の妙が、ややオーバーに言えば、スリリングかつサスペンスに溢れていて、関口さん、作家的にうまいなあ、と驚いたわけである。

 かく言う私自身もメタボで、その対応に悪戦苦闘の日々の渦中にいるので、関口さんの奮闘ぶりには同情と共感を持てる。もう一つ。私の母親もかなりの”肥満体”ではあったが、精神分析的な観点から、私と母親の関係が、関口さんと父親の関係と同じ質を持っているのかどうかと、考え込んでしまった。

 “デブの世界”が、こんなにも深いなんて、という驚きの傑作である。



原 一男(はら・かずお)

映画監督、1945年山口県生まれ。第一回監督作「さようならCP」(1972年)、2作目の「極私 的エロス 恋歌1974」(1974年)により、プロデューサーの小林佐智子とともに、原の名前は非凡なドキュメンタリストとして一部では注目されていた。だが、一般的には第三作目「ゆきゆきて、神軍」(1987年)で一躍、日本のみならず世界的に知られることになった。第4作「全身小説家」(1994年)はキネマ旬報ベストテン一位他多数を受賞し、原はドキュメンタリストとして不動の地位を獲得。現在は<シネマ塾>や大阪芸術大学教授として後進の育成にもあたっている。著書に「ゆきゆきて、神軍制作ノート+採録シナリオ」「全身小説家-もうひとつの井上光晴像」他。