映画『トム・アット・ザ・ファーム』

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敬称略・50音順

枯れたトウモロコシ畑、薄暗いキッチン、主人公トムの褪せた金髪……くすんだ色調の風景にドラン監督の才気が炸裂する、恐ろしく端正で危険な作品。嘘を重ねるほどにむきだしになっていく登場人物たちの孤独と絶望に、心の薄皮を切り剥がされるような思いがした。

── 青山七恵(作家)

ドランの天才能、官能に圧倒され
左眼球がけいれんした。

(最近右眼を失明暗したのだ)
明朝目覚めたら左眼も失明暗してるかもしれない。
ああ、愛は怖い。
ドランの映画は怖い。

── 荒木経惟(写真家)

時折覗く官能の色が緊張感を煽り、息のつまるような緊張感から解放された後で、じわりと、青インクがにじむような淋しさがある。

えすとえむ(漫画家/『IPPO』『Golondrina-ゴロンドリーナ-』『うどんの女』)

illustration by えすとえむ

私は美しいものが好き、そして怖いものが大の苦手。
だから、美しくて怖いものに対峙すると、息の仕方を忘れてしまう。秘密のタンゴ、音のしない暴力、自分が自分を奪われていく感覚。逃げられるのに逃げなかったトムと同じように。嫌悪や恐怖と紙一重のところで、この映画に魅せられる。

不安を煽るのは閉塞した田舎の農場風景だと思って観ていたけれど、一番おそろしかったのは、トムが歯を見せて笑ってみせるところだ。偽りの言葉はかくも簡単に人々の心を支配してしまう。きっとそうだと信じていたいものが、その人にとっての真実となる。

── 岡田育(編集者・文筆家)

グザヴィエ・ドランはリバー・フェニックスの再来か、それを超えた。

── 熊谷隆志(スタイリスト)

あーゆー田舎は怖いですね。
やることないから思い詰めちゃうんだね。
思い詰めちゃう事の綺麗さってあるけどそこが純粋に撮れていると思います。
こびりつく映画。
次の日の朝までゾワッとしますよ。

最後の音楽が今もリフレインしています。
綺麗な車窓。綺麗な事と怖い事は同じなのです。

── 佐内正史(写真家)

グザヴィエ・ドランの映画は初めて観たのですが、主演の彼が脚本、監督、制作、編集、衣装、そして英語版字幕の担当をすべてやった事を知って吃驚しました。この映画のカメラワークはかなり独特で斜めのショットが多いけど、同時に周りの背景がはっきり観えるカメラワークが素晴らしいです。

この映画のジャンルはサイコホラーですが少し笑いの要素が入っていたり、テーマが友情と愛となっているので、全然ジャンルだけで見たら結構想像できない内容のお話です。

そして、最後のスタッフロールにルーファス・ウェインライトの曲が最高にあっていました。彼の歌声が画面全体に響いていて素晴らしかったです。この映画は劇場で観ないと損します。

── 栗原類(モデル)

この農場から逃げたい!恋人の実家だろうがすみません!おいとまさせてください!今日来たばかりで恐縮ですが明日始発のバスで帰ります!―――…歓迎される感想ではないだろうが、私の頭は「もしも私の彼女の実家がこんな陰鬱な農場なら?」という心配事でいっぱいだ。どうしたら受け止められるだろう、こんなに心の調子が狂っちゃった人たちを。どこまで彼らの悲嘆や愛情や鬱憤を感知し同調し納得できるか。映画に器を試される。

中村珍
(漫画家/『羣青』・ライター・イラストレーター)

僕の2013年のベストムービーは『わたしはロランス』でした。そして今作──。
結論:やっぱりドランは天才でした。

サスペンス、不在証明、エモーショナル、そして逃れられない自意識。
本作も全カットが圧倒的に「正しい」。
映画界の希望の星、その名はグザヴィエ・ドラン。

── 樋口毅宏(作家)

グザヴィエ・ドランの新作、サイコサスペンスと聞いていたけれど、個人的には人間のどうしようもない、説明不可能な心のくぐもりを描いた心を震わす作品だと読み取った。グザヴィエならではの独特なスピード感に完全に魅了されてしまった102分。そこに足りないものはなかった。傑作。

── 日暮愛葉(ミュージシャン)

ドランの最高傑作!

── ヴァラエティ

スリリングで官能的なドラマ。エネルギッシュで緊迫感にあふれ、ジェンダーとジャンルの間の曲がりくねった道のりを観客が見失わないよう、説得力ある話法で導くことに成功した稀有な作品。

ベネチア国際映画祭・国際批評家連盟

立ち込める霧の中で明らかとなる、主人公の心にくすぶっていた純粋で澄み切ったむき出しの感情!現実における不確実性を追い求めた作品。

── カイエ・デュ・シネマ

本作でドランはあえて自らの得意分野と 距離を置いたが、際立ったオリジナリティで サイコスリラーというジャンル映画を更新した。

── フランス・テレヴィジオン

神童グザヴィエ・ドランは 本作で素晴らしい変化を見せている。 自制の利いた刺激的な作品。

── ガーディアン

演劇の映画化とはまったく感じさせない サスペンスの展開は、 ドランが優れた映画監督であることの証だろう。

── カナダ・ナショナルポスト

主人公の複雑な心境をドランは見事に表現しており、 自身が卓越した俳優であることも 裏付ける作品に仕上がっている。

── ル・モンド