まだ20歳そこそこのみぎり、私の持っていたレコードの半数近くはアトランティック・レーベルのものでした。それらのほとんどには、トム・ダウドの名が録音エンジニア、あるいはプロデューサーとして記されていました。つまり私は、知らぬ間に聴覚的審美眼の基準値をトム・ダウドから学んでいたわけで、それが後のミュージシャン人生にどれほど役立ったか知れません。文理両道のスーパーマン、トム・ダウド。歴史上の独創や革新とは、実はこうしたごく少数の天才の手によってなされていることを、つくづく思い知らされる映画です。

山下達郎

骨太で腰の強いリズムに、エコー少なめの硬質なヴォーカルが、ミスター・トム・ダウドしているんだよね。
普通ならまぜにくいこの2つのテイストを分離させずにMIXできるのは彼だけのワザなんですよ。
ワザじゃないね、きっともっと先在的な意識でMIXしているからでしょう。
彼のセンスが触媒になって、我々東洋人などにとっては少々濃厚すぎるソウル・ミュージックやブルースが聴きやすく、楽しめる絶妙なポップ・ソウルに仕上がっているんでしょうね。

吉野金次(サウンド・エンジニア)

「レコーディング」その心理的プレッシャーは時に想像を絶するものだ。
彼は絶大なる技量とポジティブなハートでミュージシャンを後押ししていたに違いない。
彼について語るミュージシャン達の笑顔がそれを物語っている。

片寄明人(Great3, Chocolat & Akito)

聖典を読むことなく宗教を語ることはできない。
トム・ダウドを知らぬままロックやR&Bを語る人を私は信用しない。
もっとも、知らずともその影響から逃れることはできないのだが。

松尾 潔(音楽プロデューサー)

歴史に名を残したエンジニアと言えば、まず一番に出てくる名がジョージ・マーティンだろう。
かく言う自分もそうだった。無知、無学は最大の恥。トム・ダウトのこときちんと知らなかったなんて、まったくもってお恥ずかしい限りだ。
彼が携わったトップミュージシャン達の証言もさることながら、御年?歳にして現場に立ちマルチテープ(レイラ)からのサウンドを嬉々としてミックスしている姿に感動。マジ泣いた。
彼には遠く及ばないけれど、こんな爺になれたらいいなぁと本気で思ったよ。
レコーディングに携わっている人は絶対に見た方がいい。そう断言できる作品です。

宮崎 "Dub Master X" 泉(Sound Alchemist)

アメリカで録音された音楽に共通する豊かな響き……その礎を築いた天才、トム・ダウドの姿を通じ、レコーディング・エンジニアという存在が音楽の成り立ちにおいて、いかに重要な役割を果たしているのかを明らかにする素晴らしいドキュメント作品。

國崎 晋(サウンド&レコーディング・マガジン編集長)

「音楽、演奏とは何か」
好き嫌いという趣向が大部分を支配する音楽産業の構造。現在はたして何人のプロデューサーが本来の音楽のあるべき姿を追求しているであろうか?ウソはいけない。本物の音楽に触れたとき人はなぜ感動するのか?トム・ダウドは、実に科学的、理想的な手法でミュージシャン、アーティストの最高のパフォーマンスを引き出す。このドキュメントでは、素晴らしいレコード、その仕掛けを判りやすく見せてくれた。

オノセイゲン(作曲家/録音制作家)

レイ・チャールズが、ジョン・コルトレーンが、オーティス・レディングが、アレサ・フランクリンが、そしてセロニアス・モンクも、エリック・クラプトンも、レス・ポールも、オールマン・ブラザーズ・バンドも出ているという信じられない映画である。

その映画が、トム・ダウドという一人の録音技師と、マルチトラック・レコーディングという一つのレコーディング技術をめぐってのものだということもまた信じられない。音楽が素晴らしいのと同じように、音楽を愛する心は素晴らしいということが全編から伝わってきて絶え間なく感動が続く。

山崎洋一郎(ロッキング・オン編集長)

この男がいなかったら現在の音楽シーンはすっかり変わっていたかもしれない。見終わって誰もが、そんな思いを抱く映画だ。ロック、ソウル、ジャズ……とにかく、あらゆる音楽ファンに見てもらいたい。

大鷹俊一(音楽評論家)