映画『ワカラナイ』公式サイト

第62回ロカルノ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品。世界が注目する小林政広監督が渾身の思いを込めて描く、21世紀の日本版『大人は判ってくれない』。

監督インタビューInterview

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物語について 物語について

物語についてこの映画は、トリュフォーの『大人は判ってくれない』()と同じように、
個人的なところから生まれた話なんです。
14、5歳の時に『大人は判ってくれない』を初めて観て、
「なぜこの人はこんなに僕のことを知っているのか?」
と映画を身近に感じたように、観た人を揺さぶりたいというか。

『バッシング』『愛の予感』それに、『ワカラナイ』は、僕自身への挑戦でもあったんです。
とにかく主人公をどう動かしていくか、それだけに徹した。
「映画は運動だ」という映画の原点に立ち返りたかった。
だからこの映画も出来るだけ、淀みなく運動して、感情的にも画的にもアクションで表現しようと思った。

3作すべてに言えることは、どうやって人とコミュニケートしていくのか解らない人が、やっとコミュニケーションを
とれるようになる、というところで映画が終わるということです。『ワカラナイ』では、頑なに自分の殻に閉じこもっている少年が、
父親に突き放されて、それでもまた飛び込んで行くというアクションで、終わるんだけど、それが大事なことだし、そのことが、
描きたかったことです。「そんなの甘いだろう」とかの意見が出てくることを覚悟でね。
彼にとって、「甘さ」こそが、唯一残された生き延びる術だったと、僕は解釈しているんです。


物語について最近、また、ストーリーテリングで映画を作ろうという気持ちが出てきた。
これまでだったら、あの町から出ないで終わる話になっていたと思う。
もしくは、あの町から出ていくと言うところで終わるような、おさまりのいい話にね。
でもそれじゃ、理におちるだけなんだよね。大人が考えた少年の話で、テーマもしっかりある。
そんな映画、観たくもないからね。
「この少年はいったいどこまで行くんだろう?」
お客さんがそんな興味でこの映画を観てくれたら最高ですね。
「この映画のテーマは何なのか?」
なんて、難しく観てほしくないんだ。

ロカルノ映画祭でのプレミア上映のときに、沢山のお客さんが、映画の中盤から、泣き出して観てた。
鼻をかむ音が、あちこちでしてね。そして、ラストでは、まだ映画が終わってないのに、凄い拍手が沸いた。
最近の日本映画の常套的宣伝コピーじゃないけど、「思いっきり、泣いて下さい!」でいいんです、この映画は。
お客さんに繊細な感受性がまだあることを信じてますから、僕は。

* 『大人は判ってくれない』
ヌーヴェル・バーグの旗手、フランソワ・トリュフォー監督の長編第一作にして、自伝的作品。
12歳の少年アントワーヌ・ドワネル。学校ではいつも先生に叱られ、家に帰れば共稼ぎの両親が喧嘩ばかりしている・・・。
自分の居場所を見つけられず、家を飛び出したアントワーヌは、ある日、金に困って父の会社のタイプライターを盗んで質に入れようとする。
盗みはすぐにバレてしまい、両親は彼を少年鑑別所に入れてしまう・・・。
59年カンヌ国際映画祭監督賞受賞。
原題: LES QUATRE CENTS COUPS/THE 400 BLOWS 製作年度: 1959年 上映時間: 97分
監督: フランソワ・トリュフォー 出演:ジャン=ピエール・レオ、パトリック・オーフェー、アルベール・レミー、クレールモーリエ

新人俳優・小林優斗起用の理由 新人俳優・小林優斗起用の理由

新人俳優・小林優斗起用の理由初めて会った時の、印象が強くてね。すごいコンプレックスを持っている、
ちょっと変わっている子だなあと思った。
僕のイメージしてた亮とは、全然違うんだけど、彼で、いけるような気がしたんです。
決して繊細でもなくて、むしろ役者をやろうと思っているくらいだから自己顕示欲はすごく持っている。
それが違和感だったんだけど、僕の抱いた違和感というのが、僕のイメージした亮との違和感で、
現代に生きる16歳の亮であるならば、むしろ、僕の方が彼に寄り添って行った方が
いいなと思ったんです。

とはいえ、亮を演じてもらわなくてはならないので、そのままの優斗じゃ駄目だから、
準備の段階では歩き方をまず徹底的に練習した。

撮影が始まると携帯も取り上げて、食事も劇中で食べるカップラーメンとか
メロンパンしか口にさせなかった。
でも、しっかりついてきた。根性あるなこいつと思いましたね。

もちろんまだ16歳だから、かげでスタッフや事務所の人に甘えてたりしてたみたいだけどね。

ロケ地(宮城県気仙沼市唐桑町)について ロケ地(宮城県気仙沼市唐桑町)について

ロケ地(宮城県気仙沼市唐桑町)について唐桑は小さな半島なので、町中どこへ行っても山が見えるか海が見えるか、どちらかしかない。
たいした商店街もない。

東北のどこかにある閉鎖的な田舎町にしたくて、意図的に、亮の唯一の安らぎの場である、
あの浜のシーン以外は海が映らないように逆向きから撮るようにした。

それから全体的に、車の音やいろんな音で何を話しているのかわからないくらいノイズを立ち上げて、
わざとやりとりを聴きとりにくくすることで、 いろんなことに押しつぶされそうになっている 少年を表現しようと思った。
後半の東京でのシーンが、強く印象に残るようにね。

唐桑は僕の第二の故郷でもある所なので、意地悪な人たちばかりがいる様な設定にはしたくなかったんだけど、
シナリオが出来てる以上、どうしようもない。 誤解しないでほしいけど、実際の唐桑は善良な人しかいない。
都会的な悪意みたいなものを持ってる人はいないとてもステキな町です。
国立公園にも指定されてるしね。


監督プロフィール

小林政広(こばやし・まさひろ)

小林政広(こばやし・まさひろ)

1954年東京本郷生まれ。
フォーク歌手、シナリオライターとして活動後、1996年、初監督作『CLOSING TIME』を製作。
1997年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で日本人監督初のグランプリを受賞。
映画製作会社モンキータウンプロダクション設立。

1999年『海賊版=BOOTLEG FILM』、2000年『殺し』、2001年『歩く、人』と、
3年連続カンヌ国際映画祭出品の快挙を果たす。
2003年『女理髪師の恋』ではロカルノ国際映画祭で特別大賞受賞。
監督第7作『バッシング』は2005年カンヌ映画祭コンペティション部門において日本人監督として唯一出品を果たし、東京フィルメックスでは最優秀作品賞(グランプリ)、テヘランファジル映画祭では審査員特別賞(準グランプリ)を獲得。主演も務めた最新作『愛の予感』は2007年の第60回ロカルノ国際映画祭で金豹賞(グランプリ)を受賞し、ほか3賞も同時受賞。

現在も世界各国の映画祭で作品が上映されつづけているほか、これまでの監督作品の特集上映が行われるなど、今、世界で注目されている監督のひとりである。


フィルモグラフィ

  • 1996 CLOSING TIME
    35mm・81分・モンキータウンプロダクション製作
    出演:夏木マリ、深水三章、中原丈雄、北村一輝、
    大森暁美、ベンガルほか
  • 1998 海賊版=BOOTLEG FILM
    35mm・74分・モンキータウンプロダクション製作
    出演:柄本明、椎名桔平、北村一輝ほか
  • 2000 殺し
    35mm・86分・モンキータウンプロダクション制作協力
    出演:石橋凌、大塚寧々、光石研、緒形拳ほか
  • 2001 歩く、人
    35mm・102分・モンキータウンプロダクション制作
    出演:緒形拳、大塚寧々、林泰文、占部房子、
    香川照之ほか
  • 2003 女理髪師の恋
    35mm・103分・モンキータウンプロダクション制作協力
    出演:北村一樹、荻野目慶子、林泰文、竹中直人ほか
  • 2004 フリック
    35mm・154分・モンキータウンプロダクション制作協力
    出演:香川照之、田辺誠一、大塚寧々ほか
  • 2005 バッシング
    35mm・82分・モンキータウンプロダクション製作
    出演:占部房子、田中隆三、大塚寧々、香川照之ほか
  • 2006 幸 福
    35mm・107分・モンキータウンプロダクション製作
    出演:石橋凌、桜井明美、村上淳、柄本明、香川照之ほか
  • 2006 気仙沼伝説(仮題)
    35mm・147分・葵プロモーション製作
    出演:鈴木京香、杉本哲太、岸辺一徳、香川照之ほか
  • 2007 愛の予感
    35mm・102分・モンキータウンプロダクション製作
    出演:渡辺真紀子、小林政広

本作品への小林監督のメッセージ

私は、毎回映画を作る時、デビュー作を作るような気持ちになります。 この映画『ワカラナイ』も同様です。
初めてのキャラクターたち、初めてのストーリーを前にして、心躍る気持ちと、不安が、交互に現れてくるのです。
ティーンエイジの映画を作るのは、初めてのことで、そのことも私の心を動揺させました。
少年の目線で、今の日本が浮かび上がってくるような映画を作りたかったのです。
その試みは、半ば成功しているように思います。

映画のエンディングに、皆さんが、どんな感想を抱くのか、とても興味があります。
しかしながら『Quatre Cent Coups』(邦題:大人は判ってくれない)の主人公アントワーヌ・ドワネルがそうであるように、
この映画の主人公・亮のあらかじめ失われた人生との闘いは、今、始まったばかりだということです。