早田英志・石川次郎対談

南米コロンビアのエメラルド王であり、衝撃的なアクション・ドキュメンタリー映画『エメラルド・カウボーイ』の監督兼主役である早田英志さんと、ジャーナリストとして60年代から雑誌・テレビで活躍する石川次郎さんが対談した。対談は和やかな雰囲気で始まった。

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石川 まず僕が驚いたのは、この映画『エメラルド・カウボーイ』が、コロンビア・ロケで撮影されたということです。しかもゲリラ地帯でロケをしたということで、映像そのものがかなり貴重なものではないかと思うんです。これまでコロンビアで、100パーセント・ロケでつくられた映画というのはあるんですか。
早田 ないですよ。コロンビアで撮ったことになっているけど、実際はパナマやエクアドルでやったものはありますが、普通はコロンビアの会社でもやらないです。ただ、僕にはやれる事情があるんですよ。
石川 この映画は、早田さんでなければできなかったということですね。コロンビアはロケがやりにくいと聞いていましたし、今回はゲリラ地帯で撮影したということで、大変な作業だったのではないかと思いますが。
早田 そうなんです。私の持つ鉱山地帯はゲリラゾーンの真ん中にあり、ゲリラはいつも私を狙っているわけです。鉱山主は連帯して即戦力を訓練して、万一のために武器を準備している状況ですから。
石川 例えば、映画のなかにボディーガードの人がたくさんいましたね。あの人たちは本当のボディーガードなんですか?
早田 そうですよ。会社と鉱山のボディーガードですよ。
石川 あれだけボディーガードを配置していないと、身の危険を感じるものなんですか。
早田 そうです。これは別にハッタリや伊達ではないんです。

早田さんがコロンビアでの日常生活を撮ったスナップ写真を見せる。車を下りて会社に向かう時や、鉱山に視察に行った時の早田さん、どの写真にも銃を持った屈強なボディーガードが、早田さんを取り囲んでいる。映画以上の迫力と緊張感がある写真の真ん中には、一分の隙も無い目をした早田さんの顔があった。

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石川 この写真は、映画のスチールではないんですか?
早田 映画じゃなくて、コロンビアでの毎日の日常ですよ。映画では背広ではなくジャンパーを着ていますが、これが本当の日常生活です。僕は動くターゲットですから、ゲリラは毎日狙っています。別にこの雰囲気は、映画の看板用じゃないんです。この写真が僕の日常の顔です。
石川 映画をやろうと発想した時から、絶対コロンビアでやろうと思ったんですか。
早田 そうですね。でも、大変は大変でした。スタッフはハリウッドから専門スタッフを連れてきて、俳優も連れてきたんですが、主演俳優が撮影前日に逃げたんですよ。監督も何日か前に逃げましたし。
石川 何があったんですか?
早田 監督もそうでしたが、主演の男優はアメリカ人でしたから、ゲリラの誘拐の標的だと皆に脅かされたわけです。彼は悩んだあげく撮影前日に帰った。その時は60人のスタッフが明日から撮影ということで十数台の車両とともに待機していました。
深夜に会議をひらきましたよ。今からでは主演俳優はつかまらないし、どうしようかと。その時、誰かが「早田さんが監督も主演もやればいい」と言ったんです。それで結局、僕がやることになったんです。
石川 俳優がいなくなった翌日から早田さんが主役の俳優ですよね。よく出来ましたね。
早田 決めたプロジェクトは遂行しなければいけなし、演技は僕の地でいけば、何とかなると思いました。
石川 僕は面白いと思いましたよ、ご自身がいきなり出てくるのは。でも、お会いしていると、画面のなかの早田さんとは全然違いますね。
早田 今は、演技していますから。日本人を相手にしているようなスマイルは、コロンビアでは出ないですね。映画では、子供の卒業式の時だけ、一度だけスマイルしています。
石川 早田さんはもともとは、そういう人じゃないですよね。もともとは普通の方で、コロンビアがそうさせたんですよね。
早田 そうです。凄まじい世界ですから。
石川 『エメラルド・カウボーイ』の最後の方に出ていましたが、2002年8月に早田さんがゲリラと遭遇して銃撃戦になり、被弾して意識不明の重体になったそうですが。
早田 映画のなかで、ひとつふたつは嘘があるのはしょうがないんです。映画のままでは、ゲリラが黙ってないです。コロンビアのゲリラ・ゾーンで、映画で描いたようなゲリラとの戦闘シーンを撮影されたのでは、彼らにとっては我慢できないですよ。
石川 俺たちを舐めるなよ、ということですね。
早田 そうです。ゲリラの至上命令で、僕には必ず刺客がきます。ゲリラを翻弄するのはマズイわけです。それで調整のために、瀕死の大怪我をしたことにしたんです。
石川 それは成功した人に対しての、ゲリラの妬み、ジェラシーですね。コロンビアというのは、目立ってはいけない国ですよね。
早田 そうです。目立つと誘拐されるわけです。
石川 でも早田さんは映画に出て、それがコロンビアで大ヒットした。大変目立ってますよね。映画が公開されて、身の危険を感じましたか。
早田 感じます。
石川 早田さんは、危険なコロンビアに長年いて、ご自分を守る最善の方法は、なんですか?
早田 これはもう対決しかないんです。自分で守る、逃げ隠れしない。こちらも用意してあるぞという姿勢を見せて、これ以上の戦力でくるなら俺は戦って死ぬぞという意志表明です。
石川 早田さんは30代なかばで、エメラルド・ビジネスに飛び込んでいくわけですが、その理由は何だったんですか。
早田 当時、「緑の戦争」と言われたエメラルド鉱山の利権争いで年間5千人くらいが死んでいたんです。それを新聞で見ると、まるで西部劇そのもので面白いと思ったんです。
石川 一攫千金のチャンスありと。
早田 そうです。それが30代です。
石川 早田さんが、それほど中米コロンビアにこだわった理由というのは、何かきっかけがあるんですか。
早田 あるんです。やはり子供があちらの人間として生まれるわけですから。そこで生きていくためです。それが一番大きいです。
石川 まず、中米の女性と結婚したことがきっかけといえますね。
早田 そうですね。
石川 ところで、コロンビアから見た日本というのは、どういう風に見えますか。
早田 日本での地震や政界のスキャンダルもすべて報道されていますよ。信じられないことも報道されています。例えば、コロンビアとは比較にならない先進国の日本の高校生が援助交際するとか、子供が親を殺したり、親が子供を殺したり虐待したりしたということも報道されています。コロンビアの人間は理解できないですよ。あれほど優秀な国が、どうしてこんなことをするんだという感じです。
石川 あんなに治安の悪いコロンビアの人から見て、異様なものを感じるわけですね。
早田 理解を超えた異様なものに見えますね。
石川 日本は、ある意味でコロンビアより異常なんですね。
早田 コロンビア人は日本人を素晴らしい存在だと思っています。その先進国で、何故、政界汚職や援助交際という売春行為をやるか分からないわけです。売春は貧乏な人間がやることで、豊な日本の娘が何故そんなことをするのか分からない。コロンビアでは、非常な軽蔑の対象です。
石川 それはとても耳がいたいですね。早田さんから、日本の若い男たちにメッセージはありませんか。
早田 今は、みんなやる気が失われていると思うんです。生活のテーマというか、昔の世代なら、たとえ貧しくても飢えをしのいで、豊になりたい、進歩したいとおもって頑張った。
石川 なるほど。調べてみると、エメラルドはやる気を出させるんですね。また愛と希望の象徴で、お守りという感覚もあるんですね。早田さんは、エメラルドに触れて、エメラルド・ビジネスをやっていらっしゃるから、元気なのかもしれませんね。
早田 そうですかね。僕は、自分の夢を追いかけてきただけですよ。