1970年、チリ。史上初めて選挙で選ばれた社会主義の大統領サルバドール・アジェンデが誕生し、国家規模の社会変革が始まった。本作は、その政権発足から1年間にわたる激動のプロセスを、国民の視点から丹念に描いている。
当時29歳だったグスマン監督は、映画学校卒業後すぐにチリ国内を縦断し、鉱山、農村、港、都市、学校とあらゆる場所を巡り、資本家に搾取されてきた労働者や、土地を取り戻すために立ち上がった先住民、そして新たな未来に胸を躍らせる若者たちを追い、彼らの真っ直ぐな言葉と表情を丹念に記録した。政府の政策が生活にもたらす影響、民衆の高揚感、変革への参加意識などが、鮮烈な映像と言葉によって伝えられている。社会の根底からの変化が進行する中で、既存の権力構造との軋轢や不穏な兆しも同時に記録されており、そのバランス感覚と歴史的洞察において、本作は単なる「記録」を超えた存在である。
反動勢力が動きを強めつつあった時期に、クーデターに先立って完成した『最初の年』。
そこには、いま振り返ると切なくなるほどの希望と可能性の光が満ちており、のちの作品群をいっそう胸を打つものにしている。
本作は1972年にチリで劇場公開され、感銘を受けたクリス・マルケルがフランス語版を製作し、後にフランスでも上映がされている。
グスマンは後に、この作品の一部を『サルバドール・アジェンデ』(2004年)にも織り込んでいる。
1973年、アジェンデ政権を、米国CIAの支援のもと、アウグスト・ピノチェトの指揮する軍部が武力で覆した。ピノチェト政権は左派をねこそぎ投獄し、3000人を超える市民が虐殺された。軍事クーデター後に多くのプリントが失われ、長きにわたって封印されていた。半世紀に及ぶグスマン監督監修下の修復作業の末、ついに再び息が吹き込まれた。映像作家のジョナス・メカスが設立者の一人であるニューヨークのアンソロジー・フィルム・アーカイヴズで、2Kレストア版が2023年9月に世界初上映された。
クーデターに燃やされた幻の一作が、日本でも遂に初公開となる。
1970年から1973年までチリの大統領を務め、自由選挙で選出された世界初のマルクス主義者の国家元首として歴史的に重い意味を持つ人物。
アジェンデはバルパライソに生まれ、医師として社会的弱者の健康問題に取り組むなかで政治活動に目覚め、1930年代にはチリ社会党の設立に携わり、下院議員や保健大臣として社会改革にも関与した。
その後、幾度もの大統領選挑戦を経て、与党を中心とした「人民連合」の統一候補として1970年に当選を果たし、民主的選挙で誕生した世界初の社会主義政権となった。
アジェンデ政権は、銅鉱業など主要産業の国有化、土地改革、教育・医療・住宅といった社会福祉の拡充など、労働者や農民の利益に直結する政策を次々と実行。アジェンデは「チリ独自の社会主義」を目指し、冷戦下では「チリの実験」として国際的にも注目された。 しかし、アジェンデが進めた改革は、国内の大企業や地主、保守勢力からの反発を招き、国内での政治的分断を深めた。さらに、アメリカ合衆国ニクソン政権は、CIAを通じて反政府活動や経済制裁を支援するなど、アジェンデ政権を外部からも圧迫し、政権の安定には大きな試練があった。
こうした緊張のなかで、1973年9月11日、アウグスト・ピノチェト将軍を中心とした軍部がクーデターを実行し、大統領府ラ・モネダ宮殿を包囲・攻撃。アジェンデは最後のラジオ演説で辞任を拒み、祖国への忠誠を語った後に、自ら命を断ったとされている。その死は、民主的に選ばれた社会主義者が軍事力によって倒されるという、冷戦時代を象徴する悲劇として記憶されている。
キューバ出身の革命家、政治家、そして国家指導者。1926年、オルギン州ビランの裕福な農園主の息子として生まれ、ハバナ大学で法学を学び弁護士となり、1952年のバティスタ政権によるクーデター後に政治活動に身を投じる。
「7月26日運動」後メキシコに亡命し、弟ラウルやチェ・ゲバラらと革命組織を結成。1956年にグランマ号でキューバに上陸し、政府軍とのゲリラ戦を展開、農民の支持を得ながら勢力を拡大し、1959年1月1日、カストロの軍は首都ハバナを支配下に置き、キューバ革命が成就した。
キューバ革命で権力を掌握したカストロは、社会主義化政策を徹底的に推進。アメリカ資本が握っていた製糖産業や通信、銀行などを国有化し、農地改革を実施して大規模地主の土地を没収し農民への分配を行った。この過程で中産階級やカトリック教会、一部農民からの反発が生じるも、農村部の貧困層には大きな支持を広げた。米国との関係は緊張が続き、資産国有化や社会主義化政策を進めた結果、アメリカはキューバと断交、経済封鎖に踏み切る。カストロはソ連との関係を深め、1962年には核ミサイルの配備を巡って米ソ間の緊張が頂点に達する「キューバ危機」が発生した。
冷戦後も政権は2008年まで続き、ラテンアメリカ各地での革命運動に影響を与え続けた。
1970年から1973年までチリの大統領を務め、自由選挙で選出された世界初のマルクス主義者の国家元首として歴史的に重い意味を持つ人物。
アジェンデはバルパライソに生まれ、医師として社会的弱者の健康問題に取り組むなかで政治活動に目覚め、1930年代にはチリ社会党の設立に携わり、下院議員や保健大臣として社会改革にも関与した。
その後、幾度もの大統領選挑戦を経て、与党を中心とした「人民連合」の統一候補として1970年に当選を果たし、民主的選挙で誕生した世界初の社会主義政権となった。
アジェンデ政権は、銅鉱業など主要産業の国有化、土地改革、教育・医療・住宅といった社会福祉の拡充など、労働者や農民の利益に直結する政策を次々と実行。アジェンデは「チリ独自の社会主義」を目指し、冷戦下では「チリの実験」として国際的にも注目された。 しかし、アジェンデが進めた改革は、国内の大企業や地主、保守勢力からの反発を招き、国内での政治的分断を深めた。さらに、アメリカ合衆国ニクソン政権は、CIAを通じて反政府活動や経済制裁を支援するなど、アジェンデ政権を外部からも圧迫し、政権の安定には大きな試練があった。
こうした緊張のなかで、1973年9月11日、アウグスト・ピノチェト将軍を中心とした軍部がクーデターを実行し、大統領府ラ・モネダ宮殿を包囲・攻撃。アジェンデは最後のラジオ演説で辞任を拒み、祖国への忠誠を語った後に、自ら命を断ったとされている。その死は、民主的に選ばれた社会主義者が軍事力によって倒されるという、冷戦時代を象徴する悲劇として記憶されている。
キューバ出身の革命家、政治家、そして国家指導者。1926年、オルギン州ビランの裕福な農園主の息子として生まれ、ハバナ大学で法学を学び弁護士となり、1952年のバティスタ政権によるクーデター後に政治活動に身を投じる。
「7月26日運動」後メキシコに亡命し、弟ラウルやチェ・ゲバラらと革命組織を結成。1956年にグランマ号でキューバに上陸し、政府軍とのゲリラ戦を展開、農民の支持を得ながら勢力を拡大し、1959年1月1日、カストロの軍は首都ハバナを支配下に置き、キューバ革命が成就した。
キューバ革命で権力を掌握したカストロは、社会主義化政策を徹底的に推進。アメリカ資本が握っていた製糖産業や通信、銀行などを国有化し、農地改革を実施して大規模地主の土地を没収し農民への分配を行った。この過程で中産階級やカトリック教会、一部農民からの反発が生じるも、農村部の貧困層には大きな支持を広げた。米国との関係は緊張が続き、資産国有化や社会主義化政策を進めた結果、アメリカはキューバと断交、経済封鎖に踏み切る。カストロはソ連との関係を深め、1962年には核ミサイルの配備を巡って米ソ間の緊張が頂点に達する「キューバ危機」が発生した。
冷戦後も政権は2008年まで続き、ラテンアメリカ各地での革命運動に影響を与え続けた。
制作年 | 日本語タイトル | スペイン語原題 | 英語タイトル |
---|---|---|---|
1968 | La Tortura y otras formas de diálogo | Torture and Other Forms of Dialogue | |
1969 | El Paraíso ortopédico | The Orthopedic Paradise | |
1971 | 『最初の年』 | El primer año | The First Year |
1972 | La Respuesta de octubre | The October Response | |
1975 | 『チリの闘い』 第1部「ブルジョワジーの叛乱」 |
La Batalla de Chile: La insurrección de la burguesía | The Battle of Chile: Part 1 |
1977 | 『チリの闘い』 第2部「クーデター」 |
La Batalla de Chile: El golpe de estado | The Battle of Chile: Part 2 |
1979 | 『チリの闘い』 第3部「民衆の力」 |
La Batalla de Chile: El poder popular | The Battle of Chile: Part 3 |
1983 | Rosa de los vientos | Compass Rose | |
1987 | En nombre de Dios | In God's Name | |
1992 | La Cruz del Sur | The Southern Cross | |
1995 | Pueblo en vilo | Town on Edge |
制作年 | 日本語タイトル | スペイン語原題 | 英語タイトル |
---|---|---|---|
1968 | La Tortura y otras formas de diálogo | Torture and Other Forms of Dialogue | |
1969 | El Paraíso ortopédico | The Orthopedic Paradise | |
1971 | 『最初の年』 | El primer año | The First Year |
1972 | La Respuesta de octubre | The October Response | |
1975 | 『チリの闘い』 第1部「ブルジョワジーの叛乱」 |
La Batalla de Chile: La insurrección de la burguesía | The Battle of Chile: Part 1 |
1977 | 『チリの闘い』 第2部「クーデター」 |
La Batalla de Chile: El golpe de estado | The Battle of Chile: Part 2 |
1979 | 『チリの闘い』 第3部「民衆の力」 |
La Batalla de Chile: El poder popular | The Battle of Chile: Part 3 |
1983 | Rosa de los vientos | Compass Rose | |
1987 | En nombre de Dios | In God's Name | |
1992 | La Cruz del Sur | The Southern Cross | |
1995 | Pueblo en vilo | Town on Edge | |
1997 | Chile, la memoria obstinada Chile, | Obstinate Memory | |
1999 | La Isla de Robinson Crusoe | Robinson Crusoe Island | |
2000 | Invocación | Invocation | |
2001 | Le Cas Pinochet | The Pinochet Case | |
2002 | Madrid | Madrid | |
2004 | Salvador Allende | Salvador Allende | |
2005 | Mon Jules Verne | My Jules Verne | |
2010 | 『光のノスタルジア』 | Nostalgia de la luz | Nostalgia for the Light |
2015 | 『真珠のボタン』 | El botón de nácar | The Pearl Button |
2019 | 『夢のアンデス』 | La cordillera de los sueños | The Cordillera of Dreams |
2023 | 『私の想う国』 | Mi país imaginario | My Imaginary Country |
制作年 | 日本語タイトル | スペイン語原題 | 英語タイトル |
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1997 | Chile, la memoria obstinada Chile, | Obstinate Memory | |
1999 | La Isla de Robinson Crusoe | Robinson Crusoe Island | |
2000 | Invocación | Invocation | |
2001 | Le Cas Pinochet | The Pinochet Case | |
2002 | Madrid | Madrid | |
2004 | Salvador Allende | Salvador Allende | |
2005 | Mon Jules Verne | My Jules Verne | |
2010 | 『光のノスタルジア』 | Nostalgia de la luz | Nostalgia for the Light |
2015 | 『真珠のボタン』 | El botón de nácar | The Pearl Button |
2019 | 『夢のアンデス』 | La cordillera de los sueños | The Cordillera of Dreams |
2023 | 『私の想う国』 | Mi país imaginario | My Imaginary Country |
1970年、チリで民主的に選出された初の社会主義政権。希望に満ちた革命は、やがて激しい分断と暴力に呑み込まれていく——。 『チリの闘い』は、サルバドール・アジェンデ政権が軍事クーデターに倒れるまでの最後の数ヶ月を、当時の現場で撮影し続けた映像記録である。国会内の応酬からストライキとデモ、銃声とともに倒れるジャーナリスト、空爆で崩れ落ちる大統領府までを捉えた、3部作構成となっている。
本作は、カンヌ国際映画祭(監督週間)やベルリン国際映画祭(フォーラム部門)、ハバナ映画祭をはじめとする世界の主要映画祭で絶賛されたうえ、Time Out誌によって「映画史上もっとも偉大なドキュメンタリーの一つ」と称され、政治ドキュメンタリーの金字塔として語り継がれている。
『チリの闘い』は、クーデター当日まで撮影を続けた命がけの記録である。1973年9月11日、サルバドール・アジェンデ政権を武力で崩壊させた軍部は、グスマンを国立競技場に拘束。銃口の下、15日間にわたり収容されたのちに釈放され、彼は国外亡命を決意する。
素材は撮影メンバーにより密かに国外へ持ち出され、亡命先であるキューバ・ハバナの国立映画芸術産業庁ICAICの協力のもと編集が行われた。
このたび完成した2Kレストア版は、そのオリジナル素材から5年の歳月をかけて修復されたもの。1973年のチリを揺るがした真実が、鮮やかな映像と音声と共に蘇る。
グスマンのカメラは活気にあふれ、人々の表情やまなざしに好奇心をもって迫る。
インタビューに答える人々も率直だ。
映画全体が喜びに満ちたエネルギーで脈打っている。」