”映画全体が喜びに満ちたエネルギーで脈打っている”-The New York Times”映画全体が喜びに満ちたエネルギーで脈打っている”-The New York Times

最初の年:民意が生んだ、社会主義アジェンデ政権

2025.5.2[金]より角川シネマ有楽町、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
監督・脚本:パトリシオ・グスマン
プロデューサー: マリア・テレサ・グスマン シネマトグラファー:トニョ・リオス 編集:カルロス・ピアッジオ
プロダクションマネージャー : フェリペ・オレゴ 美術:ジャン=ミシェル・フォロン 音響:マリア・エウヘニア・ロドリゲス=ペーニャ
共同製作 : ガストン・アンセロビチ、 パロマ・グスマン、オルランド・リュベルト、マリルー・マレ
プロダクションアシスタント:カルメン・ブエノ プロダクションコーディネーター:アリス・マイユー
1972年/チリ/96分/フランス語・スペイン語/5.1ch/1:1.85/日本語字幕 比嘉世津子
原題:El primer año/英題:The first year /© 1972 Patricio Guzmán/
2K restoration and digitization with the support of the CNC (French National Centre of Cinema)/配給・宣伝:アップリンク
  • DICE+|ミニシアター・サブスク
  • UPLINK

予告動画

イントロダクション

変革の始まりを見つめて―アジェンデ政権“最初の年”の記録

1970年、チリ。史上初めて選挙で選ばれた社会主義の大統領サルバドール・アジェンデが誕生し、国家規模の社会変革が始まった。本作は、その政権発足から1年間にわたる激動のプロセスを、国民の視点から丹念に描いている。

当時29歳だったグスマン監督は、映画学校卒業後すぐにチリ国内を縦断し、鉱山、農村、港、都市、学校とあらゆる場所を巡り、資本家に搾取されてきた労働者や、土地を取り戻すために立ち上がった先住民、そして新たな未来に胸を躍らせる若者たちを追い、彼らの真っ直ぐな言葉と表情を丹念に記録した。政府の政策が生活にもたらす影響、民衆の高揚感、変革への参加意識などが、鮮烈な映像と言葉によって伝えられている。社会の根底からの変化が進行する中で、既存の権力構造との軋轢や不穏な兆しも同時に記録されており、そのバランス感覚と歴史的洞察において、本作は単なる「記録」を超えた存在である。
反動勢力が動きを強めつつあった時期に、クーデターに先立って完成した『最初の年』。
そこには、いま振り返ると切なくなるほどの希望と可能性の光が満ちており、のちの作品群をいっそう胸を打つものにしている。
本作は1972年にチリで劇場公開され、感銘を受けたクリス・マルケルがフランス語版を製作し、後にフランスでも上映がされている。
グスマンは後に、この作品の一部を『サルバドール・アジェンデ』(2004年)にも織り込んでいる。

一度失われかけた、幻の記録困難な修復作業を経て奇跡的に蘇る

1973年、アジェンデ政権を、米国CIAの支援のもと、アウグスト・ピノチェトの指揮する軍部が武力で覆した。ピノチェト政権は左派をねこそぎ投獄し、3000人を超える市民が虐殺された。軍事クーデター後に多くのプリントが失われ、長きにわたって封印されていた。半世紀に及ぶグスマン監督監修下の修復作業の末、ついに再び息が吹き込まれた。映像作家のジョナス・メカスが設立者の一人であるニューヨークのアンソロジー・フィルム・アーカイヴズで、2Kレストア版が2023年9月に世界初上映された。
クーデターに燃やされた幻の一作が、日本でも遂に初公開となる。

  • サルバドール・アジェンデ
    サルバドール・アジェンデ

    サルバドール・アジェンデ

    1970年から1973年までチリの大統領を務め、自由選挙で選出された世界初のマルクス主義者の国家元首として歴史的に重い意味を持つ人物。

    アジェンデはバルパライソに生まれ、医師として社会的弱者の健康問題に取り組むなかで政治活動に目覚め、1930年代にはチリ社会党の設立に携わり、下院議員や保健大臣として社会改革にも関与した。
    その後、幾度もの大統領選挑戦を経て、与党を中心とした「人民連合」の統一候補として1970年に当選を果たし、民主的選挙で誕生した世界初の社会主義政権となった。

    アジェンデ政権は、銅鉱業など主要産業の国有化、土地改革、教育・医療・住宅といった社会福祉の拡充など、労働者や農民の利益に直結する政策を次々と実行。アジェンデは「チリ独自の社会主義」を目指し、冷戦下では「チリの実験」として国際的にも注目された。 しかし、アジェンデが進めた改革は、国内の大企業や地主、保守勢力からの反発を招き、国内での政治的分断を深めた。さらに、アメリカ合衆国ニクソン政権は、CIAを通じて反政府活動や経済制裁を支援するなど、アジェンデ政権を外部からも圧迫し、政権の安定には大きな試練があった。

    こうした緊張のなかで、1973年9月11日、アウグスト・ピノチェト将軍を中心とした軍部がクーデターを実行し、大統領府ラ・モネダ宮殿を包囲・攻撃。アジェンデは最後のラジオ演説で辞任を拒み、祖国への忠誠を語った後に、自ら命を断ったとされている。その死は、民主的に選ばれた社会主義者が軍事力によって倒されるという、冷戦時代を象徴する悲劇として記憶されている。

  • フィデル・カストロ
    フィデル・カストロ

    フィデル・カストロ

    キューバ出身の革命家、政治家、そして国家指導者。1926年、オルギン州ビランの裕福な農園主の息子として生まれ、ハバナ大学で法学を学び弁護士となり、1952年のバティスタ政権によるクーデター後に政治活動に身を投じる。
    「7月26日運動」後メキシコに亡命し、弟ラウルやチェ・ゲバラらと革命組織を結成。1956年にグランマ号でキューバに上陸し、政府軍とのゲリラ戦を展開、農民の支持を得ながら勢力を拡大し、1959年1月1日、カストロの軍は首都ハバナを支配下に置き、キューバ革命が成就した。

    キューバ革命で権力を掌握したカストロは、社会主義化政策を徹底的に推進。アメリカ資本が握っていた製糖産業や通信、銀行などを国有化し、農地改革を実施して大規模地主の土地を没収し農民への分配を行った。この過程で中産階級やカトリック教会、一部農民からの反発が生じるも、農村部の貧困層には大きな支持を広げた。米国との関係は緊張が続き、資産国有化や社会主義化政策を進めた結果、アメリカはキューバと断交、経済封鎖に踏み切る。カストロはソ連との関係を深め、1962年には核ミサイルの配備を巡って米ソ間の緊張が頂点に達する「キューバ危機」が発生した。
    冷戦後も政権は2008年まで続き、ラテンアメリカ各地での革命運動に影響を与え続けた。

    1971年のチリ訪問

    フィデル・カストロは、ラテンアメリカにおける社会主義運動の象徴として、各国の左派勢力に強い影響を与えた。特に1970年にチリでサルバドール・アジェンデが大統領に就任すると、その動向は世界中から注目された。 翌年、カストロはチリを訪問し、実に3週間にわたり全国を歴訪。この訪問により、両国の政治プロセスにおける相互協力の基盤が築かれたとされている。

サルバドール・アジェンデ

1970年から1973年までチリの大統領を務め、自由選挙で選出された世界初のマルクス主義者の国家元首として歴史的に重い意味を持つ人物。

アジェンデはバルパライソに生まれ、医師として社会的弱者の健康問題に取り組むなかで政治活動に目覚め、1930年代にはチリ社会党の設立に携わり、下院議員や保健大臣として社会改革にも関与した。
その後、幾度もの大統領選挑戦を経て、与党を中心とした「人民連合」の統一候補として1970年に当選を果たし、民主的選挙で誕生した世界初の社会主義政権となった。

アジェンデ政権は、銅鉱業など主要産業の国有化、土地改革、教育・医療・住宅といった社会福祉の拡充など、労働者や農民の利益に直結する政策を次々と実行。アジェンデは「チリ独自の社会主義」を目指し、冷戦下では「チリの実験」として国際的にも注目された。 しかし、アジェンデが進めた改革は、国内の大企業や地主、保守勢力からの反発を招き、国内での政治的分断を深めた。さらに、アメリカ合衆国ニクソン政権は、CIAを通じて反政府活動や経済制裁を支援するなど、アジェンデ政権を外部からも圧迫し、政権の安定には大きな試練があった。

こうした緊張のなかで、1973年9月11日、アウグスト・ピノチェト将軍を中心とした軍部がクーデターを実行し、大統領府ラ・モネダ宮殿を包囲・攻撃。アジェンデは最後のラジオ演説で辞任を拒み、祖国への忠誠を語った後に、自ら命を断ったとされている。その死は、民主的に選ばれた社会主義者が軍事力によって倒されるという、冷戦時代を象徴する悲劇として記憶されている。

フィデル・カストロ

キューバ出身の革命家、政治家、そして国家指導者。1926年、オルギン州ビランの裕福な農園主の息子として生まれ、ハバナ大学で法学を学び弁護士となり、1952年のバティスタ政権によるクーデター後に政治活動に身を投じる。
「7月26日運動」後メキシコに亡命し、弟ラウルやチェ・ゲバラらと革命組織を結成。1956年にグランマ号でキューバに上陸し、政府軍とのゲリラ戦を展開、農民の支持を得ながら勢力を拡大し、1959年1月1日、カストロの軍は首都ハバナを支配下に置き、キューバ革命が成就した。

キューバ革命で権力を掌握したカストロは、社会主義化政策を徹底的に推進。アメリカ資本が握っていた製糖産業や通信、銀行などを国有化し、農地改革を実施して大規模地主の土地を没収し農民への分配を行った。この過程で中産階級やカトリック教会、一部農民からの反発が生じるも、農村部の貧困層には大きな支持を広げた。米国との関係は緊張が続き、資産国有化や社会主義化政策を進めた結果、アメリカはキューバと断交、経済封鎖に踏み切る。カストロはソ連との関係を深め、1962年には核ミサイルの配備を巡って米ソ間の緊張が頂点に達する「キューバ危機」が発生した。
冷戦後も政権は2008年まで続き、ラテンアメリカ各地での革命運動に影響を与え続けた。

1971年のチリ訪問

フィデル・カストロは、ラテンアメリカにおける社会主義運動の象徴として、各国の左派勢力に強い影響を与えた。特に1970年にチリでサルバドール・アジェンデが大統領に就任すると、その動向は世界中から注目された。 翌年、カストロはチリを訪問し、実に3週間にわたり全国を歴訪。この訪問により、両国の政治プロセスにおける相互協力の基盤が築かれたとされている。

用語解説

  • 人民連合(Unidad Popular)
    アジェンデを支えた左派政党の連合体。社会党、共産党、急進党などから構成される。
  • 中央統一労働者組合(CUT, Central Única de Trabajadores)
    チリ最大の労働組合連合体。アジェンデ政権を支持し、政治的影響力を持っていた。
  • パブロ・ネルーダ(Pablo Neruda)
    チリの詩人・外交官。ノーベル文学賞受賞者であり、共産党員としてアジェンデ政権を支持した。詩と政治を結びつけた象徴的存在である。
  • キリスト教民主党(Partido Demócrata Cristiano/PDC)
    チリの中道政党。アジェンデ政権期には野党として存在感を持ち、右派との協調も図った。1973年のクーデター前には保守勢力との連携を深め、政権批判を強めていた。
  • マプチェ(Mapuche)
    チリの先住民族のひとつ。土地の回復と農地改革を求めてアジェンデ政権期に積極的に行動した。
  • ウインカ(Huinca)
    マプチェ語で「侵略者」「白人」を意味する語。スペイン人や非マプチェの権力者を指し、植民地主義的支配への抵抗の文脈で用いられる。
  • エル・テニエンテ鉱山(El Teniente)
    チリ中央部にある大規模な銅鉱山。国有化の象徴的対象であり、労働者運動の拠点ともなった。
  • チュキカマタ(Chuquicamata)
    チリ北部に位置する世界最大級の露天銅鉱山。米資本による支配を経て、アジェンデ政権により国有化された。
    国家経済における戦略的資源の象徴である。
  • チフロネス炭鉱(Chiflones)
    ロタ地方の地下炭鉱の坑道を指す名称。過酷な労働環境で知られ、子どもや高齢労働者まで働いていた。作品中でも多くの証言が登場する。
  • F・シュワガー(F. Schwager)
    19世紀にチリ南部の炭鉱を開発したドイツ系実業家。のちにロタ=シュワガー炭鉱社の創設に関わり、労働者搾取の象徴的存在として語られる。
  • コウシーニョ家(Familia Cousiño)
    銀鉱・炭鉱・ワイン産業を通じて19世紀に財を成したチリの名家。豪華な洋館や欧州文化への傾倒が紹介され、旧支配階級の象徴として描かれる。
  • ロタ・シュワガー社(Lota Schwager)
    ロタ地域の炭鉱を経営した企業。シュワガー家とコウシーニョ家の資本が統合され、長年にわたり労働者の搾取構造を築いていた。
  • アセロ・パシフィコ社(Aceros del Pacífico)
    チリの主要製鉄会社。国家近代化計画の一環で注目され、国有化によって経済構造の変革対象となった。
  • ベジャビスタ・トメ(Bellavista-Tomé)
    チリ南部の繊維工場・企業。国有化・労働者管理のモデルケースとされ、映像にも労働者の証言が登場する。

パトリシオ・グスマン監督

パトリシオ・グスマン監督
「私は、その瞬間を記録しなければならないと感じていた。 アジェンデの登場により、チリは希望と行動の国へと変わった。そこでは民衆が初めて歴史の主体となった。私はその変化の現場に立ち会い、カメラで応えたかった。」―パトリシオ・グスマン「私は、その瞬間を記録しなければならないと感じていた。 アジェンデの登場により、チリは希望と行動の国へと変わった。そこでは民衆が初めて歴史の主体となった。私はその変化の現場に立ち会い、カメラで応えたかった。」―パトリシオ・グスマン
1941年、チリ・サンティアゴ生まれ。青年期にクリス・マルケルやルイ・マルの作品に影響を受け、ドキュメンタリー映画の道を志す。チリ・カトリック大学で映画を学んだ後、スペイン・マドリードの国立映画学校(EOC)にて監督課程を修了。1971年に帰国し、本作『最初の年』を発表した。
1973年の軍事クーデターの際には拘束され、国外追放を経てヨーロッパへ亡命。キューバの支援を受けて代表作『チリの戦い』(1975〜1979)三部作を完成させ、以降も一貫してチリの歴史と記憶をテーマに作品を発表し続けている。
『サルバドール・アジェンデ』(2004)、『光のノスタルジア』(2010)、『真珠のボタン』(2015)、『夢のアンデス』(2019)、『私の想う国』(2022)など、詩的かつ政治的な作風で国際的評価を得る。現在はパリを拠点に活動しつつ、チリでも映画祭(FIDOCS)を主宰。ドキュメンタリーの思想と実践を世界に問い続けている。

投獄と亡命

クーデター当日、グスマンはチリの国立スタジアムに投獄され、15日間収容された。釈放後、ヨーロッパに亡命。マルケルの協力を得て『チリの闘い』の制作資金を集める。編集とポストプロダクションは、キューバ映画芸術産業研究所(ICAIC)の支援でハバナにて行われ、数年後に完成。
本作品はヨーロッパおよび中南米で6つのグランプリを受賞し、35か国で商業上映された。映画誌『Cineaste』は本作を「世界で最も優れた政治映画10本のひとつ」と評した。
制作年 日本語タイトル スペイン語原題 英語タイトル
1968 La Tortura y otras formas de diálogo Torture and Other Forms of Dialogue
1969 El Paraíso ortopédico The Orthopedic Paradise
1971 『最初の年』 El primer año The First Year
1972 La Respuesta de octubre The October Response
1975 『チリの闘い』
第1部「ブルジョワジーの叛乱」
La Batalla de Chile: La insurrección de la burguesía The Battle of Chile: Part 1
1977 『チリの闘い』
第2部「クーデター」
La Batalla de Chile: El golpe de estado The Battle of Chile: Part 2
1979 『チリの闘い』
第3部「民衆の力」
La Batalla de Chile: El poder popular The Battle of Chile: Part 3
1983 Rosa de los vientos Compass Rose
1987 En nombre de Dios In God's Name
1992 La Cruz del Sur The Southern Cross
1995 Pueblo en vilo Town on Edge
制作年 日本語タイトル スペイン語原題 英語タイトル
1968 La Tortura y otras formas de diálogo Torture and Other Forms of Dialogue
1969 El Paraíso ortopédico The Orthopedic Paradise
1971 『最初の年』 El primer año The First Year
1972 La Respuesta de octubre The October Response
1975 『チリの闘い』
第1部「ブルジョワジーの叛乱」
La Batalla de Chile: La insurrección de la burguesía The Battle of Chile: Part 1
1977 『チリの闘い』
第2部「クーデター」
La Batalla de Chile: El golpe de estado The Battle of Chile: Part 2
1979 『チリの闘い』
第3部「民衆の力」
La Batalla de Chile: El poder popular The Battle of Chile: Part 3
1983 Rosa de los vientos Compass Rose
1987 En nombre de Dios In God's Name
1992 La Cruz del Sur The Southern Cross
1995 Pueblo en vilo Town on Edge
1997 Chile, la memoria obstinada Chile, Obstinate Memory
1999 La Isla de Robinson Crusoe Robinson Crusoe Island
2000 Invocación Invocation
2001 Le Cas Pinochet The Pinochet Case
2002 Madrid Madrid
2004 Salvador Allende Salvador Allende
2005 Mon Jules Verne My Jules Verne
2010 『光のノスタルジア』 Nostalgia de la luz Nostalgia for the Light
2015 『真珠のボタン』 El botón de nácar The Pearl Button
2019 『夢のアンデス』 La cordillera de los sueños The Cordillera of Dreams
2023 『私の想う国』 Mi país imaginario My Imaginary Country
制作年 日本語タイトル スペイン語原題 英語タイトル
1997 Chile, la memoria obstinada Chile, Obstinate Memory
1999 La Isla de Robinson Crusoe Robinson Crusoe Island
2000 Invocación Invocation
2001 Le Cas Pinochet The Pinochet Case
2002 Madrid Madrid
2004 Salvador Allende Salvador Allende
2005 Mon Jules Verne My Jules Verne
2010 『光のノスタルジア』 Nostalgia de la luz Nostalgia for the Light
2015 『真珠のボタン』 El botón de nácar The Pearl Button
2019 『夢のアンデス』 La cordillera de los sueños The Cordillera of Dreams
2023 『私の想う国』 Mi país imaginario My Imaginary Country

海外レビュー・コメント

海外レビュー

  • 「過渡期の国家を庶民の視点から捉えたミクロな歴史の記録である。
    グスマンのカメラは活気にあふれ、人々の表情やまなざしに好奇心をもって迫る。
    インタビューに答える人々も率直だ。
    映画全体が喜びに満ちたエネルギーで脈打っている。」
     The New York Times
  • 「これは「能動的な観客」のための「能動的な映画」だ。
    そしてこの映画の復活は、ポスト・ピノチェト時代のチリにとっての新たな一歩である。」
     PopMatters

コメント

順不同/敬称略
  • 高揚!高揚!高揚!1970年のチリの空気はこの言葉の連呼で表現できるだろう。
    グスマン監督は次々とアジェンデ率いる政府の国有化事業がいかに労働者や農民を助けるかという証言を繰り返し見せてくる。これは完全なプロパガンダでもあるのだが、世界で初めて民主的に選ばれた社会主義政権の掲げる理想がいかに人々に感染していたかがわかる。だが映画後半に少し描かれるようにこうした政策はすぐに物資不足、そしてハイパーインフレを引き起こす。左派政権の伸長を恐れるアメリカの介入もあり、ピノチェト将軍がクーデターを起こして軍事政権を打ち立てるのはわずか4年後のことだ。その後、17年間チリは社会的にも経済的にもさらに低落していく。ポピュリズムは既存勢力を否定し、新しさを提示する。そこに希望を感じることは間違っているのだろうか?映画に幾度となく映し出される労働者や農民たち一人一人の鋭く、悲しさをまとった眼差しは、為政者が向き合うべきものが何なのかを僕達に突きつけてくる。
    ダースレイダー
    (ラッパー/映画監督)
  • 現代で“社会主義国家”というと、どのような印象を私たちは持つだろう。
    そのイメージをきっと覆すことになるのが「最初の年」だ。
    1970年に、世界で初めて自由選挙によって誕生した社会主義、アジェンデ政権が、民主的で主権を有する法治主義と社会正義の為の“社会主義”であることを映している。
    労働者や農民、女性や若者たちの生き生きとした希望に満ち溢れるエネルギーを前に、現代を生きる私たちは胸を張って対峙できるだろうか。
    3年で終焉を迎えることになるとはいえ、決して理想論だけでは片付けられない程に輝かしい瞬間の数々を胸に、まだまだ国会ですべきことがあると、改めて背筋を伸ばした。
    八幡愛
    (衆議院議員)
  • 中南米ではかつて少数の大地主・資本家一族が富を独占していたが、1959年にフィデル・カストロのキューバ革命が成功。チリでは1970年に社会主義者のサルバドール・アジェンデが選挙で政権を掴んだ。ニカラグアのサンディニスタ左翼革命は1979年だ。
    本作はアジェンデ政権の最初の1年間を記録したドキュメンタリーである。同政権は銅鉱山などを国有化したことで知られるが、政権発足3年後に軍部のクーデターで打倒された。社会主義体制の国はたいてい経済政策で失敗し、国民の自由を奪って弾圧する道を進むが、本作の時期ではまだそんな綻びがあまり出ていない。
    本作では登場人物の多くが“希望”を語るが、いわば社会主義が最も楽観視された幸運な時代の記録だ。筆者はアジェンデ時代のチリは知らないが、カストロ(本作でも登場)のキューバやサンディニスタのニカラグアは取材しており、彼らが国を悲惨にした事実を現地で見聞している。中南米ではその後も右派と左派の政権が交代する政治が多くの国で続いている。国を破綻させたベネズエラのマドゥロ政権などもあるが、中南米の今を考えるため、かつての「希望の時代」のことを知っておくことも大事なことだ。
    黒井文太郎
    (軍事ジャーナリスト)
”これまでにフィルムに焼き付けられた最も衝撃的かつ重要な歴史記録”-TheVillageVoice”これまでにフィルムに焼き付けられた最も衝撃的かつ重要な歴史記録”-TheVillageVoice

チリの闘い:武器なき民の抵抗

2025年11月21日(金)よりアップリンク吉祥寺、アップリンク京都ほか全国順次公開
監督・脚本:パトリシオ・グスマン
支援: クリス・マルケル、キューバ映画芸術産業庁、マッカーサー基金
プロデューサー: パトリシア・ボエロ、アリシア・クレスポ、ホルヘ・サンチェス
ナレーター: アビリオ・フェルナンデス 助監督: ホセ・バルトロメ 撮影: ホルヘ・ミューレル・シルバ
編集: ペドロ・チャスケル 録音: ベルナルド・メンス サウンド・ミキシング: カルロス・フェルナンデス 制作: フェデリコ・エルトン
アーカイブ: Estudio Heynowski & Scheumann, Noticiario Chile Films, Archivo ICAIC, Pedro Chaskel, Revista Chile Hoy, ISKRA
1975、1976、1978年/チリ・フランス・キューバ/276分/フランス語・スペイン語/5.1ch/1:1.85/日本語字幕 比嘉世津子
原題: LA BATALLA DE CHILE La Lucha de un Pueblo sin Armas/英題:The battle of Chile /
© 1975, 1976, 1978 Patricio Guzmán/
2K restoration and digitization with the support of the CNC (French National Centre of Cinema) /
配給・宣伝:アップリンク
アジェンデ政権の終焉を迫った、歴史的映像証言

1970年、チリで民主的に選出された初の社会主義政権。希望に満ちた革命は、やがて激しい分断と暴力に呑み込まれていく——。 『チリの闘い』は、サルバドール・アジェンデ政権が軍事クーデターに倒れるまでの最後の数ヶ月を、当時の現場で撮影し続けた映像記録である。国会内の応酬からストライキとデモ、銃声とともに倒れるジャーナリスト、空爆で崩れ落ちる大統領府までを捉えた、3部作構成となっている。

本作は、カンヌ国際映画祭(監督週間)やベルリン国際映画祭(フォーラム部門)、ハバナ映画祭をはじめとする世界の主要映画祭で絶賛されたうえ、Time Out誌によって「映画史上もっとも偉大なドキュメンタリーの一つ」と称され、政治ドキュメンタリーの金字塔として語り継がれている。

亡命・密輸―映画史を揺るがした、伝説のドキュメンタリーが蘇る亡命・密輸―映画史を揺るがした、伝説のドキュメンタリーが蘇る

『チリの闘い』は、クーデター当日まで撮影を続けた命がけの記録である。1973年9月11日、サルバドール・アジェンデ政権を武力で崩壊させた軍部は、グスマンを国立競技場に拘束。銃口の下、15日間にわたり収容されたのちに釈放され、彼は国外亡命を決意する。
素材は撮影メンバーにより密かに国外へ持ち出され、亡命先であるキューバ・ハバナの国立映画芸術産業庁ICAICの協力のもと編集が行われた。
このたび完成した2Kレストア版は、そのオリジナル素材から5年の歳月をかけて修復されたもの。1973年のチリを揺るがした真実が、鮮やかな映像と音声と共に蘇る。

  • 第1部

    ブルジョワジーの叛乱(101分)

    ブルジョワジーの叛乱(101分)

    左派の選挙勝利に対し、右派はストライキや妨害工作で政権転覆を図る。混乱が広がる社会の実態を捉える。
  • 第2部

    クーデター(92分)

    クーデター(92分)

    軍のクーデター未遂が予行演習となり、緊張が高まる。そして9月11日、政権崩壊の瞬間を迎える。
  • 第3部

    民衆の力(83分)

    民衆の力(83分)

    ストライキに対抗し、自主管理を始める民衆。草の根の運動は、体制変革を求める力へと発展していく。