解説

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国会議員を対象にした映画『モンサントの不自然な食べもの』上映会では、議員に向けたマリー=モニク・ロバン監督のビデオメッセージも上映されました。ロバン監督のメッセージを全文紹介いたします。

2012年6月14日 衆議院議員会館にて


当会場にお集まりの国会議員の皆様、本日は日本を代表する皆様がたに私個人の私見をお伝えする機会をいただき大変光栄に存じます。
現在、日本は、環太平洋経済連携協定、いわゆる《TPP》への参加にむけて大きく舵を切られたとうかがっております。当協定は非常に重要な意味をもつアメリカ主導の協定です。本日、皆様がたにお伝えしたいのは、北米自由貿易協定に関して、私が実際に見聞した事実です。ご存じのように北米自由貿易協定は1992年にアメリカ、カナダ、メキシコの3国間で署名され、1994年1月1日に発効された自由貿易協定です。

実は私はつい先頃、この北米自由貿易協定に関するドキュメンタリー作品を制作しました。現地で取材をしながら私が目にしたのは、当協定がメキシコ経済およびメキシコ社会に及ぼした多大なる悪影響です。中でも最悪の被害を今から申し上げます。メキシコはトウモロコシの原産国ですが、この協定によってメキシコは一夜にしてアメリカの多国籍企業モンサントが送り込む遺伝子組み換えトウモロコシに侵略されてしまいました。なぜなら、北米産のトウモロコシはアメリカの非常に手厚い補助金制度のおかげで生産費を19%も下回る破格の値段で市場に出回ったからです。

このダンピング(=破格値販売)によって、300万人ものメキシコの小規模農家の人達が農業を捨てざるを得ない状況に追い込まれました。アメリカの巨大な穀物メーカーにはもはや太刀打ちできなかったからです。離農したメキシコ人の多くがひそかに、つまり不法にリオ・グランデ川を越えました。推定では1994年から2008年にかけて不法越境したメキシコ人は毎年50万人と言われています。

北米自由貿易協定が締結される以前、メキシコは食糧に関しては自給自足の国でしたが、現在では食糧の40%以上を輸入に頼っています。そして2008年にはメキシコの歴史始まって以来の飢餓暴動が勃発しました。なぜなら、国民の主食の原料であるトウモロコシの流通が、全世界のマーケットで農産物に投機を仕掛けるカーギルやモンサントといった食品業界の多国籍企業に牛耳られてしまったからです。

輸入によってメキシコに入った遺伝子組み換えトウモロコシは地元の在来種を汚染しました。その結果、いずれ国内の在来種の全滅も危惧されます。それはまさに食料主権の要である生物多様性が劇的な形で失われることを意味するのです。

自由貿易の《比較優位》という概念があります。これは各国が自由貿易協定によって自身の得意分野を活かして得をするという希望をもたせる概念ですが、これはまやかしです。農業のみならず産業分野についても同じことです。

もちろん日本の経済力はメキシコ経済に比べてはるかに強大です。それでもなお、あえてわたくしが皆様の注意を促したいのは、TPP参加によって日本の農業、日本で消費される食品のクオリティーにどういう影響がもたらされうるかという点です。どう考えても、TPPへの参加は食糧供給において日本がアメリカへの依存を深めることになるのは明らかです。

現在、世界中で地球温暖化が進行し、異常気象に伴う農作物の不安定な供給を受けた価格の乱高下(らんこうげ)が顕著です。そうした状況をかんがみると、TPP参加は今後日本を非常に脆弱な国、立場の弱い国にしてしまいかねません。

私は現在、新作ドキュメンタリーを制作中です。同時に同じテーマで関係書も執筆しています。その撮影のため私はすでに4大陸を駆け巡り、今こうして日本にいます。その結果、確信したことがあります。私たちはこの21世紀、様々な問題に直面しています。地球温暖化、想定される化石資源の枯渇、あるいは生物多様性の危機といった難問です。もし世界各国がこうした問題に果敢に取り組み、乗り越えたいと願うのであれば、世界的にグローバル化するマーケットから食料品だけは何としても引き離すべきです。同時に、輸入ではなく自国での生産体制に戻すこと、有機農業という農業モデルに力を注ぐことです。有機農業は、天然資源を大切にし、気候の不順に対しても順応性の高い農業モデルなのです。

環太平洋経済連携協定、TPPは、今、私が推奨させていただいた方向性のまさに逆方向を行くものなのです。

皆様、最後までご静聴どうもありがとうございました。

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