監督インタビュー 写真左より、ジェイソン・コーンとビル・ジャージーの両監督

チャールズとレイを知っていくうちに、彼らの仕事には哲学があり、 単なる美的センスでデザインしていたのではないことがわかってきます。 彼らは、「これが世の中を動かすだろう」という信条を持ってものづくりをしていたのです。 ─ジェイソン・コーン監督

イームズ夫妻の仕事には、いかなるカテゴリー化もはねつける幅広さがあります。「建築家と画家」というタイトルには、俗識に対する皮肉を込めました。チャールズとレイの時代には、建築家ならビルを建て、画家ならカンバスに絵を描き、それ以外のことはしないのが当たり前とされていました。二人はそれに真っ向から挑んだのです。彼らにとって職業の肩書きとは、あくまで身につけたことの定義でしかなく、二人は建築家、画家として学んだことを、あらゆることに応用しました。

私を含め多くの人が最初にイームズの作品に惹かれるのは、その見た目の美しさからでしょう。でも、チャールズとレイについて深く知っていくうちに、彼らの仕事には哲学があり、単なる美的センスでデザインしていたのではないことがわかってきます。彼らは、「これが世の中を動かすだろう」という信条を持ってものづくりをしていたのです。たとえばポラロイド社のコマーシャルは、ただ製品を売るための映像ではなく、カメラを使う楽しさを人々に啓発するものでした。

構想から7年を経る間に、私の興味はどんどんチャールズとレイの人間的な部分に向いていきました。服装や話し方、人との付き合い方からもわかるとおり、二人とも強い個性の持ち主です。ただ時系列に沿って、完全無欠な人間として表面的に描くより、そうした彼らの人間性を、特にこれまで知られてこなかった二人の関係性を、描きたいと思いました。

この映画は、チャールズとレイの数あるストーリーのうちの1つだと思っています。観た人から「包括的に良くまとめられていた」と褒めていただくことがありますが、そんなことはありません。たとえば家具については、ハーマンミラー用の合板椅子しか取り上げていませんし、"マテマティカ展"(※1961年にIBMの依頼で制作)という素晴らしい展覧会についても、ほとんど触れる余裕がありませんでした。ただ、イームズ初心者には良いイントロダクションになるはずですし、イームズ・ファンにも初めて目にする映像や、初めて明かされる彼らの物語がたくさんつまっています。

ジェイソン・コーン監督


Jason Cohn ジェイソン・コーン 監督、脚本

本作で初めて長編ドキュメンタリーを手がけた。それ以前は、カルチャーを主軸にテレビ番組のプロデューサー、公共ラジオのレポーター、ライターなど幅広いフィールドで活躍。NHKのロサンゼルス支局で、ミシシッピ川以西のアメリカに関する報道を担当したこともある。

Bill Jersey ビル・ジャージー 監督

40年以上にわたり、テレビ・ドキュメンタリーを作ってきた。60年代初期にシネマ・ヴェリテという運動のパイオニアの1人として評価を得る。以来、PBS、WNETニューヨーク、KCETロサンゼルス、WGBHボストンなど、大手でドキュメンタリーを手がける。受賞歴多数。