コメント(敬称略/順不同)

さいとう・たかを(劇画家「ゴルゴ13」)

ただただ感激した!こんなにもリアルなストーリーは私にはきっと描ききれないだろう。 今までに観てきた、ただの娯楽作品とは違う。淡々と描いているがゆえに、主人公の気持ちが痛いほど伝わってきて胸に迫った。 このテーマを商業映画として成り立たせた作り手の手腕にも驚く。果たして今の日本でこのような作品を作り上げることができるだろうか。

岩井俊二(映画監督)

十八年前に取材でパレスチナに行ったことがある。「この紛争はあと千年続く」現地の男性が語っていた。子供たちは無垢で元気で無類のかわいさだった。思えばあの子たちも、この映画に出て来る主人公の年齢になっているのだ。

星野智幸(小説家)

見終えた後の無力感と怒りをどうしていいのかわからない。パレスチナの若者たちを裏切りと密告へ追い込んでいくのは、本当はイスラエルなのに、内部の壁で分断されて、真の敵を見失いかける。そして私は気づいて戦慄する、住民同士を敵対させるこの分断統治は、今の日本社会でも浸透しつつあるのだと。

ピーター・バラカン(ブロードキャスター)

ヨーロッパ各国が旧植民地で「分断統治」を行うことで様々な弊害をもたらしたことは歴史上の事実です。しかし、イスラエルはその上を行っている。パレスチナ人の自治区であるはずのヨルダン川西岸地区、パレスチナ人が暮らす村を分断する分離壁がそびえ立つ。ユダヤ人の違法な入植地があるからです。「占領される人々は必ず反発する」、先日国連事務総長がこんな真っ当な発言をしました。イスラエルとパレスチナの問題は根が深く、複雑ではありますが、その両者の圧倒的な力の差は明らかです。この映画がその姿をくっきりと描き出しています。ただでさえ貧しい日常がめちゃくちゃにされるパレスチナ人の若者たちの悲劇です。地球レヴェルの安全保障にもつながるこの地域の問題は見過ごすわけには行かないと思います。

四方田犬彦(批評家)

きわめてアクチュアルな政治状況を前に、寓話を通してそれを分析的に認識するフィルムである。だが同時に虚偽と誤解のメロドラマでもあり、ここに監督の作劇術が光っている。

毛利嘉孝(社会学者)

パレスチナ監督が初めて100%のパレスチナ資本で製作した『オマールの壁』。その困難な政治状況を伝えるとともに、良質のエンターテインメント、ラブロマンス、スパイ映画としてすばらしい。

岡真理(京都大学大学院教授/現代アラブ文学)

〈協力者〉とは、占領者が被占領者たちの社会を内側から蝕み破壊するために注入する毒薬だ。「壁」の中に閉じ込められて人生の可能性を奪われ、〈協力者〉という、占領が行使するいかなる暴力にも増して卑劣で破壊的な暴力に人生を狂わせられる青年たち。その暴力を通して私たちは、半世紀近く継続する常態化したイスラエルの占領が、その地に生きる人間たちにいかなる苦悩と闘いを強いているか知るだろう。主人公役アダム・バクリの寡黙な演技が素晴らしい。

マドンナ(アーティスト)

See This Brilliant Film!/この凄い映画を観るべき!(公式instagramより)