映画『世界が食べられなくなる日』

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この映画について

Director’s Interview ジャン=ポール・ジョー監督インタビュー

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明日を担う次世代に、とても期待しています。そうでなければ、映画を撮らないでしょう。事の重大さに気付いたらすぐ、行動に移さなければいけません。

Q : なぜ“遺伝子組み換え”と“原子力”を一緒に描くことにしたのですか?

A : “遺伝子組み換え”と“原子力”という二つのテクノロジーには、大きな共通点があります。まずひとつ目は、取り返しがつかないということ。一度汚染されたら元に戻らないというのは、生命の歴史の中でも初めてのことです。もうひとつは、世界中にすでに存在しているということです。

Q : 2年にわたる遺伝子組み換え食品についての実験を撮影されて、何を感じましたか?

A : CRIIGENとセラリーニ教授が私を信頼し、一任してくれました。私にとってこの映画の撮影は唯一無二の経験でしたし、明らかな実験結果も確認できました。実験用ラットの腫瘍の大きさが物語る結果には、残念ながら疑いの余地がありません。バイオテクノロジーを発展させているグローバル種子企業は真実を隠し、嘘をついています。私の義務は、そうした事実を告発することです。

Q : 遺伝子組み換え作物について、どう思われますか?

A : “汚染”、“取り返しがつかないこと”、“生物からの搾取”を思い浮かべます。人は約12,000年前から、農家は種をまき、耕作を繰り返してきました。遺伝子組み換えは生物を私有化すること、すなわち食物を独裁的にコントロールすることを意味します。それによって植物の生物多様性は終焉を迎えるでしょう。もちろん私は農業用の遺伝子組み換えのことを言っているのであり、医療分野の研究のため、実験に用いられている遺伝子組み換えに関してではありません。後者は発展してしかるべきです。

Q : “原子力”というと何を連想されますか?

A : 私にとってヒロシマは、人類の自己破壊の始まりです。民間の原子力技術保有は、軍事利用を発展させるための言い訳だったのです。原発も、遺伝子組み換え作物のように、破局的な結果を生む、取り返しのつかないテクノロジーなのです。この二つのテクノロジーを自然界で利用することは、21世紀になっても続いています。人間は常に新しいテクノロジーを編み出し、利用し、発展させてきました。しかし1986年4月26日にチェルノブイリで原発事故が起きて以来、その地区一帯は何十年、何世紀にもわたって、強制的に立ち入り禁止地区となってしまったのです。セヴァン・カリス=スズキが言うように、原子力は、悪魔との契約であり、次世代への究極の犯罪なのです。

Q : 福島での撮影はいかがでしたか?

A : 苦労しました。怖かったです。自分も被曝する危険がありましたから。でも、日本の方々が突然直面した重大な事故に立ち向かうには、それくらいの危険は冒さなくてはなりません。日本政府と東電が犯した罪は、人間や植物や細菌の世界、あらゆる多様性や美や豊かさを持つ生物を犠牲にしているのです。

Q : この映画が大きな反響を呼ぶことを期待されますか?

A : 危険性をまだ知らない人々に、「今は緊急事態で、今までの認識を改めるべきだ」と気付いて欲しいです。フランスや他の原発保有国で、新たな惨劇が起こるのを待つわけにはいかないのです。2012 年5月(インタビュー時)に全ての原子炉を止めた日本人から、我々フランス人は学ばなくてはいけません。1年で原発由来の電力消費を30%も削減したのです。つまり、日本の原発が供給するエネルギー量を減らしたということです。ジェレミー・リフキンが著書の中で「第3革命」と言っているように、近い将来に人類は独自の自然エネルギーを造り出し、共有するようになるでしょう。ネット上で情報を生み、共有しているようにね。
消費者は商品を選ぶときに、遺伝子組み換え作物ではなく、環境や次世代をリスペクトしてつくられた農作物を買うことで、「投票する」ことができるのです。電力に関しても同じです。自然エネルギーを扱うサプライヤーは存在するのですから。

Q : 未来について、どうお考えですか?

A : 明日を担う次世代に、とても期待しています。そうでなければ、映画を撮らないでしょう。事の重大さに気付いたらすぐ、行動に移さなければいけません。

監督プロフィール

IMG ジャン=ポール・ジョー Jean-Paul Jud

国立ルイ・リュミエール大学卒業後、1979年より監督として多くのテレビ番組の制作を行う。1984年のCanal+(フランスの大手ケーブル放送局)の設立当初より、主なスポーツ番組の制作と中継を担当し、スポーツ映像に革命をもたらす。
1992年には自身の制作会社J+B Sequencesを設立。2004年自らが結腸ガンを患ったことを機会に、「食」という生きるための必須行為を取り巻く様々な事象を振り返り、『未来の食卓』を製作。フランスでドキュメンタリーとしては異例のヒット作となる。2010年、環境活動家のセヴァン・スズキを追い地球環境への警鐘を鳴らした『セヴァンの地球のなおし方』では、すでに遺伝子組み換え食品と原発の危険性を示唆していた。その際の来日で、東日本大震災後の日本を取材し、今作『世界が食べられなくなる日』を完成させる。


プロデューサー ベアトリス・カミュラ・ジョーからのメッセージ

この映画がフランスの人々の意識に与えた影響はとても大きいと思います。

2012年の9月の公開以来、フランスでの上映は続いています。上映後には、ほぼ毎回監督のトークが行われますし、100回以上のディベートにも参加してきました。この映画が人々の意識に与えた影響はとても大きいと思います。

ただ、日本と同様にフランスのメディアも決して核問題や遺伝子組み換えについての問題を取り上げません。環境的、経済的、そして政治的な社会の問題だからです。フランスは原発一辺倒のエネルギー政策を推し進め、成功してしまいました。世界中で初めてエネルギーの74%も原発に依存した国です。 フランスでは、ジャーナリストやエコロジスト以外は福島について話していません。ジャン=ポール・ジョー監督が受けた取材でも、「あなたの映画は遺伝子組み換えと原発について追った作品ですが、遺伝子組み換えについてのみ話しましょう」と提案されることもありました。

この作品の日本公開は、恐らく様々な理由から全く違った反響があると思うので、私としても大変興味深いです。


2012年9月19日にエルゼビア社の専門誌『フード・アンド・ケミカル・トキシコロジー』に発表。同日中に、フランスの週刊誌『ル・ヌーヴェル・ オプセルヴァトゥール』で最初に掲載された。その後、ル・モンド紙を含め論文の発表が一斉に報じられるよう仕組んだ上で、本作は同年9月26日にフランスで一般公開された。


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