風の馬


舞台は1998年、チベットの首都ラサ。幼少期を共に過ごした兄妹のドルジェとドルカ、従妹のペマはそれぞれの人生を歩んでいた。 地元のディスコで歌っていたドルカは将来有望な中国人青年の恋人の助けでレコードデビューを控えていた。一方、兄のドルジェは退廃的な日々を過ごしていた。友人達が政治的な地下活動を続ける中、彼は仕事もなく、毎日ビリヤード場で仲間たちとたむろし、酒に溺れていた。

幼少期以来、二人は出家した従妹のペマと会うことは無かったが、その再会は残酷なものだった。当局によってダライ・ラマを慕う全ての行為が禁止された事を機に、僧院で密やかに出家生活を送るペマの怒りと不満は爆発し、その意志を表明したことが理由で投獄されてしまった。監獄で拷問を受け、瀕死の状態で釈放されたペマはドルジェとドルカの家に引取られた。たまたまチベットを旅していたアメリカ人旅行者のエミーと出会った彼らは、彼女のビデオカメラに、虫の息の従妹ペマの言葉と姿を記録し、海外のメディアを通じて当局を告発する事を考える。自分に起きた恐ろしい出来事をカメラに語り終え、やがて息を引き取るペマ。しかし、彼らのこうした抗議活動計画は当局に知られてしまう。エミーのビデオカメラは通関で没収され、一家は警察に追われることになるが、ドルカの恋人が彼らの逃亡の手助けを試みる。故郷を追放されたほかの何十万というチベット人たちと合流するためにヒマラヤ山脈を越える時、彼らは山上に吹く風に人々の自由への祈りや希望の描かれた無数の「風の馬(ルンタ)」を飛ばすのだった。