イントロダクション

「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないのです。―レイチェル・カーソン

批判にさらされながらも決して屈することなく
人類の健康と環境の危機を訴えたレイチェル・カーソン

カーソンが穏やかに余生を送ったメイン州の海岸にあるコテージ
カーソンが穏やかに余生を送ったメイン州の海岸にあるコテージ

「彼女がいなければ、環境運動は始まることがなかったかもしれない」 映画『不都合な真実』がきっかけで、ノーベル平和賞を受賞したアル・ゴア元アメリカ副大統領が賞賛した女性、レイチェル・カーソン。彼女は1962年に出版されベストセラーとなった著書『沈黙の春』の中で、世界で初めて化学物質が環境に与える危険性を告発。この本をきっかけに、アメリカ政府はDDT(有機塩素系の殺虫剤、農薬)の使用を禁止する法律を制定するなど、国家をも動かすインパクトを全米に与えた。しかし、一部のメディアや化学薬品産業からの批判にさらされ、彼女の主張が不都合な人々によって、「ヒステリックな女性」と呼ばれながらも、決して屈することなく人類の健康と環境の危機を訴えた。


カーソンが余生を送ったメイン州の海岸にあるコテージを訪れ、
豊かな自然の中で甥のロジャーと過ごした日々を美しいドキュメンタリー・タッチで再現

本作は、彼女の遺作となった『センス・オブ・ワンダー』の映画化である。地球と生命を愛したレイチェル・カーソンが、最後に伝えたかった"神秘さや不思議さに目をみはる感性(センス・オブ・ワンダー)"の大切さが詰め込まれたこの映画は、もとは主演女優のカイウラニ・リーが、18年もの間カーソンのメッセージを伝えるため脚本を執筆し、カーソンの最後の1年を演じてきた一人芝居『センス・オブ・ワンダー』であった。

「自然と触れ合えば皆、自然と恋に落ちる。それこそが地球を守る唯一の方法であるということを、多くの人に伝えたくてこの舞台を始めた」とリーが語るように、この一人芝居は愛知万博でも上演されるなど、世界的な広がりをみせている。

そして、どうしてもこの舞台を映画化したかったというリーは、カーソンの友人たちのアドバイス、そしてレイチェル・カーソン文芸財団の許可のもと、監督のクリストファー・マンガー(『ウェールズの山』/09)と共に、カーソンが穏やかに余生を送ったメイン州の海岸にあるコテージを訪れ、豊かな自然の中で甥のロジャーと過ごした日々を美しいドキュメンタリー・タッチで再現した。


一人の女性としてフルタイムの仕事を持ち、家族を養いながらも、
現代で最も重要な本を書き上げたカーソンの生き方

科学者として、作家として、そして、一人の女性として"神秘さや不思議さに目をみはる感性(センス・オブ・ワンダー)"を持って、勇敢に生きたレイチェル・カーソン。

「レイチェル・カーソンという女性は科学者でしたが活動家ではありませんでした。フルタイムの仕事を持ち、家族を養いながらも、現代で最も重要な本を書き上げたのです」とマンガー監督が語るように、この映画は小鳥たちのコーラスや木の芽の感触、海辺のにおい、夜空にまたたく星を感じながら日々を暮らすための知恵と信念が詰まった、カーソンからの大切なメッセージである。