解説

日本消費者連盟 共同代表 真下俊樹


アップリンクが配給しているもうひとつのフランス映画『未来の食卓』のジャン=ポール・ジョー監督は、「原発と遺伝子組み換え作物(GMO)には共通点がある」と言っています。「どちらも第二次世界大戦で使われた戦争のための技術から生まれた。原発は原爆から、GMOは毒ガスから(毒ガスをもとに除草剤が作られ、それに耐える植物が遺伝子組み換えで作られた)。どちらも自然を支配しようとする技術であり、人や環境に取り返しのつかない被害を与える」

マリー=モニク・ロバン監督のこの映画『モンサントの不自然な食べもの』は、GMO種子で90%の世界シェアをもつモンサント社とはどんな企業なのか?をテーマにしています。「これまでいろんなドキュメント映画を作る過程で、いつもモンサントの名前に行き当たっていたので、気にはなってたの。それである日、インターネットで“モンサント”と打って検索してみた。そしたら700万件もヒットした。『へぇー、すごい』と思って、“モンサント 汚染”、“モンサント 汚職”とか、いろんなキーワードで次々に検索してみた。すっかりハマってしまって、3、4カ月もネット検索にのめり込んだ。文献を読めば読むほど、この企業が工業化時代でもっとも物議をかもしている企業だと分かった」とロバン監督はこの映画を作った動機を語っています。映画の中でもその検索の過程が再現されています。

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モンサント社の「業績」

モンサント社は、アメリカで1901年に設立され、世界46カ国に進出している多国籍バイオ科学メーカー。ポリ塩化ビフェニル(PCB)、枯れ葉剤、牛成長ホルモン、除草剤ラウンドアップ、遺伝子組み換え作物の開発企業として知られます。製品はどれも人体や環境への悪影響で世界中で問題を起こしてきました。

PCBは熱に強く、燃えない、電気を通さない、科学的に安定しているなどの性質から、熱媒体、変圧器やコンデンサといった電気機器の絶縁油、ノンカーボン紙などに幅広く利用されました。いっぽう、生体への毒性は極めて強く、体に取り込まれるとガンやさまざまな内臓疾患、ホルモン異常、全身の塩素挫創、子供の奇形、皮膚の色素沈着といった問題を引き起こします。日本では三菱モンサント化成が製造していましたが、1968年に、米ぬか油に混入する「カネミ油症事件」が起きて西日本一帯で約1万4000人が被害を受け、1975年に製造・販売が禁止されています。しかし、いまも製品の中や環境中に大量に存在し、「眠る爆弾」とも呼ばれています。

枯れ葉剤は、ベトナム戦争でジャングルに隠れてゲリラ戦を展開するベトコンに手を焼いたアメリカ軍が、ジャングルを枯らし、農業基盤を破壊するために飛行機から大量に散布したものです。そのなかに含まれていた毒性の強いダイオキシンに400万人のベトナム人が曝露し、たくさんの奇形児が生まれました。散布したアメリカ軍兵士も曝露し、帰還兵4万人が健康被害の補償を求めて集団訴訟を起こしました。

牛成長ホルモンは、子牛の成長が非常に早くなり、乳牛でとれるミルクの量が20%まで増加すると言われています。しかし、投与されたホルモンが肉やミルクに残存してそれを飲食した人にアレルギーやホルモン異常、さらにはガンを引き起こすとの指摘があります。モンサント社は遺伝子組み換え大腸菌に牛成長ホルモンを作らせる製法を開発し、1994年に「ポジラック」という製品名で売り出しました。しかし、消費者の拒絶で売上げが伸びず、2008年にこの部門を売却して撤退しました。しかし、製品そのものはアメリカでいまも使われ続けています。

遺伝子組み換え作物は、この映画にも出てくるように、安全性の確認が不十分だったり、データが捏造されたりしています。遺伝子の働きは極めて複雑で何が起きるか分からない部分が多く、世界中の消費者がモルモット状態といえます。また、ラウンドアップが効かない「スーパー雑草」が拡大するなど、自然からのしっぺ返しも始まっています。

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食料生産全体を支配

img ※世界の遺伝子組み換え作物の作付面積

モンサント社はみずからを「生命科学企業」と位置づけ、私たちの命の糧である食料の世界支配を目指しています。その手始めは種です。

農耕文明が始まって以来、人間は収穫した作物から良いものを選んで次の年に植えることを繰り返すことで豊かな稔りを生みだしてきました。

農民が種を採ること(自家採取)は人類生存の基盤といえます。モンサント社は、この種の遺伝子の一部を組み換えることで種全体の特許を取得し、商品として独占しました。その種を自家採取して植えたり、さらには勝手に花粉が飛んできて交雑しただけでも(!)「知的所有権違反」で訴えられ、多額の賠償金を請求されるのです。モンサント社は世界中の種苗会社を買収していて、非GMの種を大量に仕入れるのは不可能なため、生産者は毎年モンサント社の種を買うほかないのが実状です。

モンサント社はさらに食料となる植物の糧である「」の支配にも乗りだしています。「いま取り組んでいるのは、まさに食料生産全体の統合だ。種と同様に水も食料生産に欠かせないのだから、モンサント社は水の支配を確立しようとしている」と同社の幹部は語っています。種と水という、人類が平等に享受できた自然の恵みを商品に変え、独占しようというのがモンサント社の世界戦略なのです。

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世界42カ国で上映、16カ国で翻訳:各国で大反響

この映画の中で、ロバン監督が依拠しているネット情報は、すべて政府文書や公聴会記録、調査報告などの公式文書です。これを科学論文や政府高官、専門家、被害者などのインタビューで補強する形で映画は進行していきます。こうした、私見の入り込む余地のない事実を積み重ねることによって否応なく明らかになるのは、ウソと詐欺、政治家・官僚との癒着、安全性データの捏造、GM種子や除草剤ラウンドアップの健康への悪影響を示す論文を発表した研究者への容赦ない弾圧、等々、世界の食糧を支配するためには手段を選ばないモンサント社の所行の数々です。

「GMO反対? 科学の可能性を信じない無知な人たちのバカげた行動ね」とおっしゃる「科学教」信者な人も、これらの事実に簡単には反論できないのではないでしょうか。いつもなら、こうした報道に対して訴訟や政治的圧力、一般市民を装った投書攻勢などあらゆる手段で潰しにかかる当のモンサント社でさえ、自社ウェブサイトに小さな批判記事を載せるくらいしかできなかったのですから。

この映画は、ヨーロッパで最初ドキュメンタリー番組としてテレビ放送され、同時に本としても出版されました。フランスでは視聴者数160万人を記録、本は10万部以上売れたそうです。ドイツでは「環境メディア賞」を受賞。政治家も多くがこの番組を視て衝撃を受け、EUやヨーロッパ各国のGMOをめぐる政策にも大きな影響を与えたといわれています。発表の翌年に行われた欧州議会選挙で、ヤン・アルテュス=ベルトラン監督の映画『HOME 空から見た地球』とともに、この映画が緑の党の躍進に大きく貢献したとの選挙分析もあります。

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