風の馬


チベット難民2世としてインドで育った私は、チベットを見たことがありません。
画面に映る、まだ見たことのないふるさとの映像を、切なく複雑な思いで見ました。60年代にチベットから逃れてきた母は、幼い私に、ふるさとの厳しく美しい自然と平穏な暮らしを語るたび
「村に中国人が来て、村長が捕えられて連れ去られ、チベット人たちは何も持たず着の身着のまま逃げてきた」
と涙しました。私の父母の世代が体験した苦痛も、この映画で描かれる1990年代も、それから10年以上経った2009年の現代も、中国政府のふるまいはまったく変わっておらず、チベットでチベット人が人として生きられないという残酷な現実は続いています。
08年3月、自由を訴えたチベット人が再び銃火で弾圧され、多くの死者と行方不明者が出て、さらに多くの人が逮捕され、拘束され、密室で過酷な取調べを受けています。日本でもご覧になる方々には、この映画が訴える悲劇が、10年前の過去にあっただけでなく、今も続いていることを知っていただければと思います。

── ツェリン・ドルジェ(Students for a Free Tibet Japan代表)

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