ピンク・P I N K・ぴんく   藤井謙二郎(監督・撮影・編集)

いわゆるポルノ映画でありながら、そこから多くの優れた映画監督を輩出するという世界的にも稀有な歴史を持ち、しかし10年後にはなくなるだろうと言われているピンク映画。
或いは、10年後にはなくなるだろうと20年前から言われ続けていながら、今だに生き延びているピンク映画。
この『ピンクリボン』は、そんな摩訶不思議なピンク映画の世界を覗き見たものです。ただし「ピンクは何を表現してきたか?」といった点については、既に多くの評論が書かれ、またビデオ等で過去の作品の鑑賞が可能となった現在ですので、本作では敢えて触れません。
むしろこのドキュメンタリーは、そうしたところからは見えてこない、現実としての映画作り、ビジネスとしての映画産業という側面に焦点を当てたものです。 ところで1930年代イギリスで生まれたdocumentaryという用語は、日本では当初「資料映画」と訳されたそうです。

しかし「資料」では作り手の創造性なるものが希薄に感じられるということで、やがて「記録映画」そして「ドキュメンタリー」という語へと変化・定着していったわけですが、 私は常々、単なる「資料映画」に戻りたいと考えている者です。その意味では本作も「ピンク映画の現実的側面についての資料映画」と言えるでしょう。
そこでは私は、カメラによる資料収集人=肉体労働者であるに過ぎません。 編集/解釈といった知的作業は、お客さんひとりひとりにお任せします。 私はただ採集出来た映像資料を羅列するのみです。勿論、その羅列にも私の主観は否応なしに入りこんでいるのでしょう。 しかしそんなものは、数多くのお客さんの主体性の前では無力だと知っています。ここに登場する誰に共鳴し、誰に反撥を感じるかは、老若男女それぞれ異なるようですし、 どういった発言や出来事に興味を感じるかも、例えば映画に対する知識やスタンスなどでバラバラでしょう。 そしてそれらがモンタージュされ、そこから生まれる新たな意味も同様に千差万別なわけです。本作にある映像群が、それを撮った私の予想もつかないような形で、 皆さんにとって某かの意味ある資料となれば幸いです。


藤井謙二郎 プロフィール
1968年東京生まれ。
慶応義塾大学卒業後、一旦は放送局に就職するものの退社し、早稲田大学大学院修士課程にて映像を専攻。在学中より広告カメラマン助手を務める。
記録映画製作会社ディレクターを経て2001年、初の長篇『≒森山大道』(監督・撮影)が劇場公開となる。これまで謎の多かった森山の実像に迫った異色ドキュメンタリーとして評判となる。
翌年、映画『アカルイミライ』の制作過程をつぶさに捉え、俳優陣と黒沢清監督の関係を捕らえたドキュメンタリー『曖昧な未来、黒沢清』でTokyo Filmex 2002 観客賞を受賞。
2004年には新作の裸像制作の過程を日誌的につづりながら、彫刻家“舟越桂”を浮き彫りにした『≒舟越桂』も公開され、話題を呼んでいる。