スタッフについて

スタッフにはサンドリーヌ・ボネールが親しく、信頼のおけるメンバーが集められた。第2班カメラには何年にも渡ってサンドリーヌを撮影してきたカトリーヌ・キャブロルが選ばれた。録音はジャン=ベルトラン・トマソンとフィリップ・リシャールが交代で担当した。サンドリーヌ・ボネールと彼らはクロード・シャブロルの『沈黙の女 / ロウフィールド館の惨劇』と『嘘の心』で出会い、以来友人として付き合いがある。プロデューサーのトーマス・シュミットも友人である。サンドリーヌ・ボネールはこの作品を家族的な雰囲気の中で作りたかった。そして目立たないように撮影することも重要であった。施設での日常生活を邪魔しないためにも、少人数のスタッフで撮影を進めていった。

姉として、監督として-対峙する感情のジレンマ

サンドリーヌ・ボネールが家族としての感情にとらわれずに、監督として撮影を乗り越えることができた理由は、作品のテーマを常にしっかりと見据えたからである。テーマとは自閉症者の治療とケアに関する実態を報告することである。家族や身近な人が彼らの面倒を見られなくなった時、彼らをどうしたらいいのか。どのようなまなざしで彼らを見つめるべきなのか。一般人と違う彼らをどのように受け入れたらいいのか。

彼女はサビーヌという一人の人間を中心に描いているが、別の問題を抱えた人物達も撮影している。右目は撮影し、左目では周囲で起こっていることに注意を払いながら冷静に現場を捉えた。例えばオリビエというてんかんの青年を対象として捉える際、彼が転ぶ姿や、彼が母親と過ごす時、カメラは彼の手をゆっくりと追う。青年は豊かな表現能力を持っているが、彼の動作はとても遅く、よく転ぶ。彼の生きるリズム、動くリズムに合わせ、寄り添おうとした。彼の手の傷を映したシーンは、この作品の制作に際してのサンドリーヌ・ボネールの姿勢を表している。青年の手は人間としての彼そのものである。ピアノやギターを弾く時は、もっと器用な手を望んだろう。発作を起こした時に、自分の体が倒れるのに支えることができない手。

自身がナレーションを担当することになった経緯

サンドリーヌ・ボネールは一般的にナレーションを嫌うため、ナレ-ションの採用は苦しい決断だった。映画館で上映される作品を目指していたので、サビーヌについてすべてを語ることが必要だった。比較的短い時間の中で彼女の歴史を観客に理解してもらうためには、多くの情報を入れる必要があった。ただナレーションとナレーションの間が離れてしまったため、話の筋道を保てるか心配だったと言う。しかし結果的に、ナレーションで語るサンドリーヌ・ボネールの内面の声は、昔の“アーカイブ映像”では効果を発揮した。彼女がこの時代に感じるノスタルジーとうまく調和しているからである。また、現在のサビーヌを語る際、ナレーションは客観的な情報を伝える役目を担い、現状を報告する冷静な声となった。
どのようなスタイルでナレーションを吹き込むべきか迷いはあった。姉として語るべきか。それとも女優として語るべきなのか。そこで異なったバージョンをいくつか作ってみた。一つは当事者として親密な声で語ったもの。サビーヌの人生を語ることは自分の人生を語ることでもあるからだ。別のバージョンでは、女優としての声に重きを置いた。中立的な声で試したものもある。しかしどれも一貫性を保つことができなかった。最終的には、このストーリーと深い関係を持つ者の声、そしてもっと普遍的にストーリーを語る声、この二つを適度にミックスしたスタイルに決めた。

音楽について

音楽にはモレッティ監督作品の『親愛なる日記』でニコラ・ ピオヴァーニが演奏している曲が選ばれた。サビーヌがバッハのプレリュードを弾いているシーンを思い起こさせるテーマ音楽が必要だったからだ。サビーヌとニコラ・ ピオヴァーニのピアノのタッチには似た要素があり、とてもやさしく、最後にバイタリティあふれた音色を出すところも似ていた。それにタイトル『親愛なる日記』がこの映画に相応しかった。ピオヴァーニ氏は好意によって権利を無料で譲った。編集者のスベトラナ・ベインブラとの話し合いの中で、音楽のテンポを徐々に落とす案が浮かんだ。サビーヌの状態、そして彼女の物語を象徴するためである。映画が進むにつれ、音楽がゆっくりと流れるようになる。映画の最後には音楽は引き伸ばされ、間延びしたような形をとる。ジェファーソン・ランベィエは奇妙な音をつなげたオリジナル音楽を作曲した。映画の最後でサビーヌがより内向的になったシーンの音楽だ。これらの低く、こもった音を聴くと、サンドリーヌ・ボネールは病院の廊下を思い起こしたという。
冒頭で長い金髪を揺らせたサビーヌが太陽の下に現れる時、軽い音がバックに流れるが、映画が進むにつれ、音楽が徐々に暗く響き、最後にジェファーソン氏とピオヴァーニ氏の音楽が混ざり合う。暗い音と希望の音、これらは映画の最後に彼女が投げかけたいくつかの質問に対応している。