2021年配給作品

ケネス・アンガー マジック・ランタン・サイクル HDリマスター

2021年3月12日(金)よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、アップリンク京都ほか全国順次公開

  • この作品は自主上映可能です

    料金など詳細については自主上映のご案内のページをご覧ください

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時代を越え、ジャンルを越え、名だたるクリエイターに多大なる影響を与え続けている
アンガーの呪術的イメージの集大成「マジック・ランタン・サイクル」がHDリマスター版で蘇る!

『アンダー・ザ・シルバーレイク』の元ネタというべき、ハリウッド黄金期の闇の歴史を暴いた『ハリウッド・バビロン』の著者。アレイスター・クロウリーに傾倒した魔術師。マーティン・スコセッシ、デヴィッド・リンチ、デレク・ジャーマン、R.W.ファスビンダー、デニス・ホッパー、ガス・ヴァン・サント等、数多のクリエイターに影響を与えたアンダーグラウンド映画界のヒーローと、様々な顔を持つ男、ケネス・アンガー。

彼に関わりを持つ人々も、ミック・ジャガーや当時ミックのガールフレンドだったマリアンヌ・フェイスフル、作家のアナイス・ニン、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジと一筋縄ではいかない。そしてアンガーの作品で重要な役割を担うボビー・ボーソレイユは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で描かれたシャロン・テート事件の首謀者チャールズ・マンソンの「ファミリー」であり、自身も殺人罪で無期懲役中だ。

近年、 エンパワメントやフェミニズムといった観点からも、”魔女””魔術””オカルト”などが注目されるなか、GUCCIの2019年キャンペーンでアンガー自身がモデルに起用され、アンガーの魔術的な世界は再度脚光を浴びている。現代のミュージックビデオやCMの始祖と言われる鮮烈な映像は、時代を越え、ジャンルを越え、色あせることなく私たちを魅了する。

※本上映は9作品を2つのプログラムに分けて上映いたします。

■A_PROGRAM (全90分)
魔術的神秘家アレイスター・クロウリーに捧げられた『ルシファー・ライジング』、アナイス・ニン出演のサイケデリックムービー『快楽殿の創造』、ミック・ジャガーが音楽を担当した『我が悪魔の兄弟の呪文』など、アンガーのめくるめく悪魔的イメージサイド。

①『ルシファー・ライジング』(1980 年/カラー/28分)
②『快楽殿の創造』(1953 年/カラー/38分)
③『我が悪魔の兄弟の呪文』(1969 年/カラー/11分)
④『人造の水』(1953 年/カラー/13分)

■B_PROGRAM (全71分)
魅惑的なイメージと音楽のコラージュがミュージック・ビデオの原型と言われるアンガーの最高傑作『スコピオ・ライジング』、男がただただ改造マシン を磨き上げる『K.K.K.』、古き良き20年代のモード『プース・モーメント』、ほろ苦く甘いファンタジー『ラビッツ・ムーン』、アンガーが17歳で監督した『花火』など、アンガーの憧れが詰まったフェティッシュ・サイド。

①『スコピオ・ライジング』(1963年/カラー/29分)
②『K.K.K. Kustom Kar Kommandos』(1965年/カラー/4分)
③『プース・モーメント』(1949 年/カラー/6 分)
④『ラビッツ・ムーン』1950年バージョン (1950 年/カラー/17分)
⑤『花火』(1947年/白黒/15分)

ストーリー

■A_PROGRAM (全90分)

『ルシファー・ライジング』(1980年/カラー/28分)
魔術的神秘主義者アレイスター・クロウリーに捧げられた作品で、砂漠、寺院、スフィンクス、空飛ぶ円盤、といった魔法の象徴的モチーフが散りばめられている。マリアンヌ・フェイスフル演じるリリスは古代エジプト神話に伝わる女性の悪霊。オープニング・タイトルは『2001年宇宙の旅』のSFXを担当したウォーリー・ヴィーヴァーズによるもの。1966年に撮影が開始され、当初堕天使ルシファー役の少年が事故死したため、ボビー・ボーソレイユが代役に立った。しかしボーソレイユは完成途中のフィルムを盗難。その後マンソン・ファミリーにまつわる殺人事件で死刑を宣告された彼は獄中のなかでスコアを手掛け、1980年にようやく完成した。アンガーが当初依頼していたものの使用されなかったレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ(本作にも出演)によるサウンドトラックは、2012年に公式リリースされた。

『快楽殿の創造』 (1953年/カラー/38分)
イギリスのロマン派詩人サミュエル・テイラー・コールリッジの『クーブラ・カーン』(1798年)から着想を得て、アンガーがアレイスター・クロウリーの神秘思想や呪術的な儀式の映像化に挑んだ作品。チェコの作曲家レオシュ・ヤナーチェクによるグレゴリック・ミサをバックに、アーティスト/女優のマージョリー・キャメロンが魔女(スカーレット・ウーマン)、著作家のアナイス・ニンが月の女神アスターテを演じる。1958年のブリュッセル万国博覧会に出品されたバージョンは、3画面の投影装置・ポリビジョン方式にて上映された。SF『五十年後の世界』や自身の『プース・モーメント』からの引用を交え、退廃的な雰囲気とめくるめく色彩の連続は、当時ハリウッドで流行していたLSDによる幻覚がベースになっているとアンガーは告白しており、70年代のサイケデリック・カルチャーを先取りしていたと言えるだろう。

『我が悪魔の兄弟の呪文』 (1969年/カラー/11分)
ヘイトアシュベリーに存在し、1967年にアンガーとクロウリーによる公演『エキノックス・オブ・ザ・ゴッズ』が開催された劇場、ストレート・シアターと、1966年から67年にかけてアンガーが住まいとしていたサンフランシスコの歴史的建造物ウェスターフィールド・ハウス=通称“ロシア大使館”で撮影された。ここに居住していた悪魔教会の教祖アントン・ラヴェイのほか、ローリング・ストーンズのメンバーと浮名を流した女優アニタ・パレンバーグ、収監される前のボビー・ボーソレイユが登場。ベトナム戦争やローリング・ストーンズのハイドパークでのライブといった、カウンター・カルチャー全盛の当時の時代背景が色濃く現れたフッテージがインサートされている。粗編集版を観たミック・ジャガーがモーグ・シンセサイザーによる即興を駆使したサウンドトラックの提供を買って出て、不穏なムードを強調している。

『人造の水』(1953年/カラー/13分)
原題“Eaux D'Artifice”はアンガーの造語で、フランス語の花火“Feu D'artifice”をもじってつけられた。水の魔力がテーマで、ユネスコの世界遺産に認定されているイタリア・ティボリのエステ家別荘の噴水庭園で撮影された。ヴィヴァルディの『四季』より『冬』が流れるなか、庭を歩く女性やバロック様式の彫像、そして噴水が幻想的なタッチで描かれる。50年代パリやローマなどヨーロッパを転々としていたアンガーは、ジャン・コクトーやフェデリコ・フェリーニらと親交を深め、今作に登場する小柄な女性もフェリーニに紹介されたという。無声映画のような効果を生むため、16ミリのモノクロフィルムで日中に逆光の状態で撮影したあと、青いフィルターをつけてカラーフィルムに焼き青みがかった画にすることで、庭園を照らす月光とそれにより浮かび上がる白い色を表現している。

■B_PROGRAM (全71分)

『スコピオ・ライジング』(1963年/カラー/29分)
ポップソングにのせバイカーたちの日常とレザーやバイク、スタッズなどをフェティッシュに描き、デヴィッド・リンチ、ギャスパー・ノエ、ニコラス・ウィンディング・レフンなど後代の映画作家に影響を与え、ミュージック・ビデオの元祖とも言われている。ブルックリンで現地のバイク好きの若者たちに声をかけ、彼らの素の姿を収めることをアンガーは狙った。マーロン・ブランド主演の『乱暴者』が映るテレビ、ジェームズ・ディーンの写真が貼られた壁や名誉除隊の書類も実際に彼らのもの。ボビー・ヴィントン『ブルー・ヴェルヴェット』、エルヴィス・プレスリー『悲しき悪魔』などの作中流れる音楽は、当時ラジオで流れていたアメリカのポップソングという基準で13曲使用。なお、作中に突然宗教的なシーケンスが挿入されるが、これは今作の編集中に教会の日曜学校用のフィルムが間違って玄関先に届けられていたものを借用したという。

『K.K.K. Kustom Kar Kommandos』 (1965年/カラー/4分)
若者、ドラッグレース、カスタムカーをテーマにしたこの企画は、『スコピオ・ライジング』の後、当初長編として制作される予定だったフォード財団から1万ドルの助成金を得ていたもののアンガーはそれを他の用途に使用したため資金不足により頓挫し、3分間のこの作品だけが完成した。Kommandosが複数形となっているのはその名残で、実際にはひとりの若者だけが取り上げられている。3つの単語の最初のスペルがKになっているのは、ティーンエイジャーたちがこのような小さなアイディアで大人が入り込めない自分たちだけの世界を構築していることを表現するためだと、アンガーは語っている。フィーチャーされている楽曲も、ボビー・ダーリンのナンバーをザ・パリス・シスターズがカバーした「ドリーム・ラバー」だけに、自分の愛車をパフで愛でるように磨く青年と改造車のラブストーリーと表現したい作品。

『プース・モーメント』 (1949年/カラー/6分)
基は『プース・ウィメン』という40分の作品になる予定だったが、アンガー曰く家族からの援助がもらえずこのバージョンとなった。タイトルは作品に登場する20年代ハリウッドで人気だったピュース色(暗い紫味の赤褐色)のドレスに由来する。その次代のハリウッド・スターがくつろぐ豪華な生活を映像化しており、映画で使用されたドレスは、無声映画の時代に衣装デザイナーであったケネス・アンガーの祖母が所有していたもの。クララ・ボウやメイ・マレーといった女優が実際に着ていたドレスが使用されている。女優を演じるのはイヴォンヌ・マルキス。アンガーによるとこの映画の後、彼女はメキシコに移りカルデナスの大統領愛人になった。音楽を担当したのはジョナサン・ハルパー。2014年に人気バンド、フランツ・フェルディナンドが挿入曲「Leaving My Old Life Behind」をカバーしている。

『ラビッツ・ムーン』1950年バージョン(1950年/カラー/17分)
ベースとなっているのは、コメディア・デラルテというイタリアの仮面即興劇で、そこに「月にウサギがいる」という日本の昔話がモチーフになっている。満月に思い焦がれる悲劇的なピエロが主人公で、彼が憧れている娘コロンビーヌと悪魔が変装したペテン師のハーレクインのコミカルな三角関係と神話的なモチーフが同居している。1950年にアンガーがジャン・コクトーに憧れフランスに滞在している際に撮影されたものの、その後日の目を見ず未完成のままだった。1971年に完成した16分のバージョンでは当時のドゥーワップが多用されている。1979年の7分のバージョンはスタン・ブラッケージの息子ロークの誕生会で上映するために、倍速でコマ飛びしでプリントした素材を使用し、よりコミカルさが強調されている。繰り返し使用されている音楽は、A Raincoatというバンドの「It Came In The Night」。

『花火』(1947年/白黒/15分)
アンガーが17歳の頃に監督・撮影・編集・主演を兼ね完成させた、実質上の処女作。ハリウッドにあるアンガーの祖母の家で、家族が出かけている間に撮影された。撮影助手は写真家のチェスター・ケスラーが担当し、音楽はイタリア人作曲家レスピーギのレコードを使用している。性的な妄想にとりつかれた少年をアンガー自身が演じている。大挙して押し寄せる水兵たちに少年が暴行を受けるなどのサド・マゾ的、同性愛的描写や、ペニスが花火に変わるといった性衝動のイメージにより、作品が発表されるとアンガーはわいせつ罪で逮捕されてしまう。事件はカリフォルニア州最高裁判所に持ち込まれたが、裁判所はポルノではなく芸術であると見なし、彼は無罪となった。この作品をきっかけに性科学者アルフレッド・キンゼイとの交流が始まり、1956年にキンゼイが亡くなるまで友情を育んだ。

予告編

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